「見ていると彼女は本当にすてきで、かっこよくて、自分が情けなくなった。『おれももっとがんばれるはずだったのにさぼったから、彼女と差を付けられてしまったな』と。

 そして今後、彼女のこうした姿を見ることができないのだということがたまらなく悲しかった。自分は思った以上に安室奈美恵のことが大好きだったのだと気づいた」

 Aさんは結婚を機に安室奈美恵から卒業したつもりであったが、ここでそのやり方が「思いを清算した」のではなく「思いを封印した」ことに気づかされたのだった。安室奈美恵の引退をきっかけに封印した想いが復活して溢れかえっているあんばいである。

 5歳になる娘が「パパ何見てるの?」と部屋にやってきたので、Aさんは娘を膝に乗せて「この人はパパが子どもだった頃から活躍しているスターの人だよ。かっこいいでしょう?」と語って聞かせたが、娘はあまり興味を持てなかったようで「ふーん」と言ってすぐに膝から降りてリビングに行ってしまった。娘の最近のブームはもっぱらプリキュアである。実はAさん、「娘には“奈美恵”と名付けたかったが自重した」そうである。

 2週間ほどそうして過ごすうち、Aさんにだんだんと余裕が戻ってきた。自宅でDVDを見る時間が減り、代わりに娘のままごとやプリキュアごっこに付き合う時間が増えた。Aさんが立ち直るきっかけになったのも安室奈美恵だった。

 引退以来、ネットに散在する安室奈美恵関連の記事を片っ端から読みあさっていたAさんは、彼女の実母が殺害される事件を彼女自身がどう受け止めて、そしてその後どう立ち向かっていったのかを改めて知ったのだった。彼女は途方もない悲しみの中で、自分も同じ母親として子どもを愛し育てる決意をした。その強さを知ってAさんは心を打たれた。