NECの本丸である生体認証システムで、NECと並んで3強といわれるのが、クレジットカードの本人確認に指紋認証を導入する仏IDEMIAと米コジェントだ。両社は技術レベル、顧客基盤共にNECにとって侮れない相手だ。
米ベリントは、イスラエルの諜報機関モサドの技術を民間に展開する本格派だ。映像解析だけでなく、SNSの書き込みなどサイバー空間の情報を加味して要注意人物を特定、監視する技術などに強く、軍隊にもソリューションを提供している。
ベリントにとって生体認証技術はツールの一つにすぎない。同社も顔認証技術を開発するが、自社技術に固執せず、必要に応じてNECの技術を活用しているという。
デロイト トーマツ コンサルティングの本下雄一郎シニアマネジャーは「映像だけではなく、インターネット上の書き込みや音声、センサーデータなどを総合的に解析するプラットホームを提供できる企業が主導権を握る」と話す。
NECがセキュリティー事業で目指す営業利益率5%を実現するには、プラットホーマーから買いたたかれることがない高い技術力を保てるかどうかが鍵になる。
NECの田熊範孝執行役員は技術的な優位性について「顔、虹彩、指紋、指静脈、声などさまざまな技術があるのが強みだ。これらを組み合わせてさらに精度を高め、顧客の課題をクリアする」と話す。
NECは新技術の実用化にも取り組む。17年6月に英国で行われたUEFAチャンピオンズリーグ決勝戦では、パトカーの屋根に載せた監視カメラに映った人物と、要注意人物のリストに登録された50万枚の写真をリアルタイムに照合し、群衆に紛れた指名手配犯の逮捕に成功した。
NEC改革の集大成
命運握る海外企業のM&A
NECのセキュリティー事業の成否を左右するのは技術力だけではない。もう一つの鍵がM&Aだ。
急成長する世界市場を取りにいくには、技術や顧客基盤を持つ企業を買収してスピーディーに事業展開することが欠かせない。
実際、20年度に目指す事業規模2000億円のうち1100億円はM&Aによって積み上げる計画なのだ。
前出のNEC幹部は、「ノースゲートに続く、M&Aを準備している」と明かす。世界のセキュリティー関連企業には投資マネーが流れ込み、価格は高騰しているが、M&Aを先送りするわけにはいかない。セキュリティー事業を「成長の中核」と位置付けるNECが、同事業で目標未達になれば、成長戦略が破綻しかねないだけでなく、NECの実行力に再び疑問符が付くことになるからだ。
NECの命運を左右するといっても過言ではないセキュリティー事業のM&Aを統括するのは、新野社長がこの春、抜てきした2人の副社長、熊谷昭彦氏(海外事業担当)と森田隆之氏(M&A担当)だ。
NECは半導体などの事業で、技術で勝ってビジネスで負けてきた。セキュリティー事業で失敗を繰り返さないためにはスピード感と実行力が不可欠だ。新野社長による企業文化の改革の成果が、早速問われることになる。