NHK「クローズアップ現代+」をご覧になった方も多いと思いますが、静岡県富士市にある小さな企業相談所が、いま日本中の中小企業から注目を集めています。「富士市産業支援センター(通称f-Biz/エフビズ)」の支援を受けた多くの会社が、次々と新たな商品やサービスを開発し、目覚ましい成功を収めているのです。
あるプレス用金型メーカーは、新開発の金型がもたらす「効果」をクローズアップして売り出したところ、半年で2億5000万円もの売り上げになりました。
ある公認スポーツ栄養士は、地元の弁当屋さんと組んで「スポーツ弁当」を売り出したところ、10日で3万食を完売しました。
あるオーボエ奏者は、趣味のコスプレで演奏した映像をツイッタ―に投稿したところ、香港のイベント主催者からオファーが来ました。
経営不振の町工場から、ほとんど仕事のない個人事業主まで、見事に蘇っていくのです。
その秘密は、f-Bizセンター長・小出宗昭さんのユニークなアドバイスにあります。
その戦略は何か? このたび、ダイヤモンド社から『御社の「売り」を見つけなさい!』を上梓した小出さんが、豊富な実例を示しながら、企業再生のポイントをわかりやすく解説していきます。
地元の特産品「味付けがんも」をどうにかできないか?
1959年生まれ。法政大学経営学部卒業後、(株)静岡銀行に入行。M&A担当などを経て、2001年、創業支援施設SOHOしずおかへ出向、インキュベーションマネージャーに就任。起業家の創出と地域産業活性化に向けた支援活動が高く評価され、Japan Venture Awards 2005(主催:中小企業庁)経済産業大臣表彰を受賞した。08年に静岡銀行を退職し、(株)イドムを創業。富士市産業支援センターf-Biz(エフビズ)の運営を受託、センター長に就任し、現在に至る。静岡県内でも産業構造の違う3都市で計4ヵ所の産業支援施設の開設と運営に携わり、これまでに1,400件以上の新規ビジネス立ち上げを支援した。そうした実績と支援ノウハウをベースに運営しているエフビズをモデルに、愛知県岡崎市のOKa-Biz、広島県福山市のFuku-Biz、熊本県天草市のAma-biZなど各地の地方自治体が展開するご当地ビズや、国の産業支援拠点「よろず支援拠点」が開設されている。
大量生産で安価な商品を卸す大手業者に押され、市内の豆腐店が苦境に立たされる中、静岡県豆腐油揚商工組合富士支部の皆さんと「金沢豆腐店」店主の金沢幸彦さんが、打開策を求めてf-Bizに相談にみえました。
この豆腐店のみならず、売上低迷の理由について、「大型店や量販店ができたから」「うちは駐車場がないから」「大量生産の値段にはかなわない」といった声をよく聞きます。
そこで私がよく言うのが、交通の便の悪い場所にあっても人気のレストランもあれば、高めの価格設定でも客足の途絶えないスーパーもあるということです。それがなぜかと言うと、その商品やサービスに魅力があるからに他ならないからです。
では、どのようにして魅力を作っていけばいいのか?
相談にみえた時点で金沢さんは、「味付けがんも」を特産品として売り出すことを考えていました。「味付けがんも」とは、通常のがんもどきの具材の中に砂糖が入ったドーナツのように甘いもので、富士地域で昔から親しまれている伝統食です。
素晴らしいアイデアだと思う一方で、それだけでは現状を打破できるほどの効果は上がらないようにも思えました。
まずは、豆腐の主原料である大豆の強みとトレンドを調べてみることにしました。すると、大豆はたんぱく質が豊富であること以外に、イソフラボンという女性ホルモンと似た働きのある成分が含まれている健康食材であることがわかりました。
そこでターゲットを、ヘルシーなものを好む女性に絞り、「スイーツがんも」というコンセプトで新たに商品を作ることを提案しました。
また、その商品として、味付けがんものサンドイッチを提案。濃厚で味わい深い甘味が、パンにもマッチするのではないかと考えたからです。これには根拠がありました。かつてアメリカを旅したとき、サンフランシスコの自然食スーパーで食べた豆腐バーガーが想定外に美味しかったという記憶があったからです。
後に金沢さんは、「斬新なアイデアに初めは戸惑った」と述べていますが、試作品作りまで私どもが買って出たことでヤル気に火がついたといいます。
じつは、f-Bizの司令塔とも言える事務局長が、かつて料理人をめざして老舗ホテルで働いていたという経歴の持ち主で、調理師免許も取得しています。だから自信満々で提案してみたのです。
そして案の定、試作品のサンドイッチが美味しかったことから、商品開発が本格始動しました。