モーツァルトやベートーヴェンといった作曲家は、猛烈なビジネスマンだった――?! ビジネス上でも個と個を結んでくれるクラシック音楽について、初学者のビジネスパーソンにもわかりやすくまとめた『クラシック音楽全史』。その発売を記念して、著者・松田亜有子さん(東京フィルハーモニー交響楽団 広報渉外部長)が、非常にクラシック好きで業界に対して多大なる支援もされているマルハンの韓昌祐会長に、クラシック音楽の素晴らしさについて聞いたインタビューをお送りします。(撮影:野中麻実子)

肺結核の入院中にクラシックファンに

松田亜有子さん(以下、松田) 韓(ハン)会長はクラシック音楽の大ファンでいらっしゃいますが、いつごろ何をきっかけに好きになられたのですか。

韓昌祐さん
株式会社マルハン代表取締役会長
1931年韓国生まれ。47年16歳で来日、57年京都府に創業、72年レジャー施設運営などを手がける現マルハン設立、99年より現任。法政大学卒業。

韓昌祐さん(以下、韓) 私が大学に入ってすぐの頃、肺結核になったことがあるんです。当時の国立東京第一病院に入院し、ずうっと寝ていなければなりませんでしたから、イヤホンでよくクラシック音楽を聴いていましてね。チャイコフスキーの「くるみ割り人形」とか「白鳥の湖」というあたりから好きになり、一日中聞いていました。

松田 お辛いときに、慰めになりますよね。

 同部屋で入院していた2人は亡くなって、僕だけ生き残った。ルンバール(腰椎穿刺のこと。脳脊髄液を採取して、症状を調べる検査)も当時のことですから麻酔もなくやるんですからものすごく痛いし、本当に苦しい1年だったけれども、毎日同じ生活の中でも音楽がつかの間の楽しみをくれましたよね。退院してからも、コンサートに行くお金はなかったから、帝都名画座という映画館で音楽の映画をよく観ましたね。『ラプソディ』を観ていたら、エリザベス・テーラーがロサンゼルスの海岸線を真っ赤なスポーツカーで走っていき、パッとボタンを押すと、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲が流れてきて。そのきれいなこと!

松田 そのお話、たしかソニーの大賀さん(元社長。故人)にもされたんですよね。

 そう、あの当時にカセットはありましたか?と尋ねたら、あれは映画のために、車のボタンを押したら音楽が流れるように細工してつくったんだ、と聞きました。いまだにこのメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲は好きだから、弊社の50周年記念イベントでもずっと流していた。思い出深いです。

松田 昔から、ポップスや演歌は聴かれなかったんですか。

 僕、あまり好きじゃないんですね。クラシック音楽はどういうわけか肌にあった。それが高じて、LP盤をたくさん買い集めて、ついにクラシック音楽喫茶の「るーちぇ」というのを始めたんですよ。自分が好きで始めましたし、朝から晩まで聴いていました。オーケストラもピアノもヴァイオリンも何でもござれでね。

仕事で嫌なことがあっても音楽を聴くと忘れられる

松田 なかでもお好きな曲を伺ってもいいですか。

 昔からよく聴いていたのはグロリア聖歌隊です。宗教音楽が好きで、バッハやヘンデルの曲も好きでしたね。ピアノ曲ならドビュッシーかな。「月の光」なんて、すごく落ち着くよ、あれは。あとオーケストラなら、ドボルザークの『新世界』を聴くと、死んだ息子のことが思い出されてね……それから、スメタナの『モルダウ』を聴くと、韓国を思い出しますね。曲によっていろいろ思い出されますよね。

松田 ベートーヴェン以降の作曲家の曲は、どちらかというと、劇的で、社会や政府にも負けない、という主張の曲が多いですが、そういうものよりも、もっと静かな落ち着く曲がお好きなんですね。

 いや、もちろんベートーヴェンも好きですけどね。素人ぽいようだけど(笑)やっぱりチャイコフスキーやラフマニノフのピアノ・コンチェルトとか、そういったものが好きです。ショパンのノクターンのソナタとか、そういうのは何回聞いても飽きがこない。仕事で嫌なことや苦しいことがあっても、音楽を聴いていると美しいメロディだけが残って、モヤモヤも全部消えてしまう。

松田 韓会長は同郷のご出身であるヴァイオリニストのチョン・キョンファさんの初来日コンサートをかつて支援して実現されましたが、どういう経緯だったのですか。その後、キョンファさんはアジアのヴァイオリン界を世界レベルに押し上げ、今や世界的な人気を誇っておられます。10月に東京フィルでやった、弟であるマエストロ、チョン・ミョンフンとの共演も素晴らしかったです!

 もう35年ほど前ですけど、知り合いの大学教授から、支援してあげられないか、という話がありましてね。国家の名誉にかけて動員しました。実際、キョンファさんに会ったらすごかったですしね。全身からパワーがあふれている感じでね。