今、顧客減、会員減に悩んでいる企業は多い。中でも定額課金=サブスクリプションモデルで利益を上げている場合には、会員取得ばかりに目を向けて、離れてしまう顧客には、なかなか有効な手を打てない現状だ。
元WOWOWグループ初の女性取締役であり、顧客を引き留める「リテンションマーケティング」で実績を上げた大坂祐希枝氏が初の著書である『売上の8割を占める 優良顧客を逃さない方法 利益を伸ばすリテンションマーケティング入門』を発売。
この連載では、この著書から一部抜粋してご紹介する。
WOWOWの神対応に称賛の声
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前々回では、番組データベース構築の考え方を、そして、前回では、番組のデータベースを結果的に1300種類の「気持ち」に分けて構築したというお話をしました。
この「気持ちデータベース」を構築した後、私たちは、そのデータベースを活用したリコメンドシステムの開発に取り組み始めました。
ある時ヤフーのトップページ中段の「ツイッターの話題紹介」欄に「WOWOW解約電話対応が神対応と称賛の声」という話題が紹介されました。顧客データベースと番組データベースを解約リテンションに使い始めて数ヵ月が過ぎた頃でした。
『WOWOWに解約の電話かけて解約理由(テニミュ特集終わったから)を答えたら、「テニスの王子様に出演されていた松岡さんが主演のNARUTOの舞台が10月に放送されるのですが、松岡さんのファンではございませんか?」って聞かれてちょっと笑いそうになった…w WOWOWすごい』
これは、『テニスの王子様』という、中学校のテニス部が舞台の漫画が原作のミュージカル(略称:テニミュ)の放送を目当てに加入した人がツイッターに、放送終了後に解約しようと電話したときのことを投稿したものです。
対応したコミュニケーター(オペレーター)に、解約理由を『テニスの王子様』が終わったからと伝えたら、オペレーターから「松岡広大さんのファンではありませんか?」という質問があり、「なぜ私の好きな俳優を知ってるの!?」と予想外の突っ込みに驚き、笑いそうになったという内容です。
松岡広大さんとは、『テニスの王子様』に出演していた俳優。オペレーターは、その松岡さんが主演する『NARUTO』という舞台の放送があることを伝えて解約を止めようとしたのです。
このツイートは大反響をよび、「客層をよくわかってる」「オタ心(オタクの心)をくすぐる対応」「神対応」といったほめ言葉が多かったのですが、中には、「ウソでしょ。こんなこと言うわけない」というものもありました。
ウソではありません。番組リコメンドシステム(顧客データベースと番組データベースを、顧客に番組を勧めるシステムとしてこう呼ぶことにしました)を使ったリテンショントークでは当然の対応です。
通常、定期利用の商品やサービスの解約をしようとする顧客に企業が別の商品を勧めることに対して、褒められたり、驚かれたりすることはありません。
それは、企業が勧める商品はあくまでも自社の都合で勧めているのであり、必ずしも顧客にとって「自分に合う」と感じられる商品ではないからです。
ツイートした人が驚き「WOWOWすごい」と感じた理由は、自分を知るはずのない解約窓口のオペレーターに自分が好きな俳優について質問され、その俳優が出る番組を勧められたからです。