以下に引用するのは、2009年7月7日にグーグルがブログで発表した「ベータ段階の終了」を知らせる文面である(私は最後のセンテンスが特に気に入っている)。
私たちはしばしば、グーグルが提供するアプリケーションの多くがいつまでもベータ版なのはなぜか、とたずねられます。たとえばGメールは5年以上ベータ版のタグを付けています。そのことについて、ベータ版を“未完成版”という従来の意味で捉えておられる皆様は特に疑問をお感じになるようです。
2年前にビジネス用グーグルアップス〔2016年9月に名称を「Gスイート」に変更〕を立ち上げて以来、弊社は利用者とのあいだで365日24時間サポートのサービスレベル契約を結び、その点以外でもすべての非ベータ版ソフトウェア基準を満たすサービスを提供してきました。現在、弊社自身を含め、世界中で175万社以上がグーグルアップスを活用してビジネスを展開しています。
その中で、試験段階であるかのような印象を与えるベータ版タグの付いたソフトを、ビジネスで使用することをためらう大企業が存在することがわかりました。そこで私たちは、ベータ版表示を外せる高レベルの基準を設け、その基準達成に向けて努力を続けてきました。そしてこの度、グーグルアップスに含まれるすべてのアプリケーションがその基準に到達しましたので、ここにご報告いたします。(中略)
なお、「ベータ版」のままご使用になりたい場合は、「設定」の「Labs」画面で簡単に「ベータ版」の外観に戻せることも申し添えます。
実に面白い。画面から古い「ベータ」ロゴは消えたが、利用者側の設定次第でそれを再度呼び戻すことができるというのだ!つまり、B・E・T・Aの4文字ワードは利用者にとって何の意味もないということだ。
これは、本当に重要な文書だ。現代のソフトウェア設計の基本原則を世に知らしめたものと言える。Gメールは、断続的に繰り返される当たり外れの大きいプロダクトサイクルの終わりを告げ、終わりなき開発が続くプロダクトの誕生を告げたのである。
顧客をイノベーションのための
パートナーにする
何が言いたいかというと、そもそもベータ版というのは、最終的な準備が整う前に顧客の利用に供してフィードバックを集め、それを最終的な製品に反映させて出荷するためのものだ。それはアジャイル・プロダクト開発とも呼ばれるが、その肝は、開発プロセスに顧客や主要なステークホルダーに参加してもらい、想定外の事態を予想し、品質保証に役立てるところにある。
Gメールのチームはこの考えをさらに一歩進め、「最終的な製品」という最後の部分をすっ飛ばしたのだ!自分たちが作っているのは静的なものではなく、生きて呼吸する製品なのだから、顧客をイノベーションのためのパートナーとして参加させればいいじゃないか、ということに気づいたのだ。ずっとベータ版マインドセットでやっていくことに何か問題があるのだろうか、と思い至ったのである。