日米摩擦当時は、米国の貿易赤字の半分を日本が占め、日本製品の流入に苦境に陥った業界が対策を求めて議会に陳情。議会の保護主義圧力を抑えるため、政府間交渉で日本側が輸出自主規制に応じるといったことが繰り返された。だが今は、赤字の半分近くを占める中国やEU、メキシコなどよりも低い8.6%に過ぎず、業界や米議会からも日本に対する目立った批判はない。

 にもかかわらず、日米摩擦当時、自ら新聞に日本製品の輸入禁止を求める意見広告を出したこともあるトランプ大統領の頭の中にだけ、「80年代の日米摩擦が“冷凍保存”されている」(経産省幹部)というわけだ。

 トランプ大統領の貿易や通商政策に関する考え方も、従来の米国の政策とは異なるものだ。

 トランプ大統領がこだわるのは、2国間関係を軸にした貿易収支。米国からの輸出が、貿易相手国からの輸入を上回り、あらゆる貿易相手国に対して黒字を計上することが「勝ち」だと考える、一昔前の重商主義的な発想だ。そのためには、米国の輸出が増えるよう貿易相手国に市場開放を求め、逆に相手国に高関税を課して輸入品の流入を抑えるのは当然というわけだ。

 WTO違反の一方的な措置で「制裁関税」を課したり、冷戦時代の遺物とされる「安全保障(上の)措置」を名目に、鉄鋼に25%、アルミに10%といった「追加高関税」を課したりといった“禁じ手”を使い、衰退した地域や産業の不満や格差拡大に対する国民の怒りといった内政問題を、すべて貿易政策で解決しようとするかのような強引さが際立っている。

唐突に出てきたTAG
FTA交渉に追い込まれる

 こうした中、9月の日米首脳会談で合意されたのが、「日米貿易物品協定(TAG、Trade Agreement on Goods)」の交渉開始だった。

「TAGの話は直前まで全く聞かされてなかったから驚いた」と経産省の中堅幹部は、唐突にでてきた「TAG」に困惑を隠さない。

 日本はこれまで、米国が二国間で貿易だけでなく、投資や非関税障壁などの規制も含めて包括的な自由化をすすめる「FTA(自由貿易協定)」を求めるのに対して、自由化推進は多国間の地域協定を拡大することを主張。

 トランプ政権には、当初は米国を含む12ヵ国が合意した「TPP(環太平洋経済連携協定)」への復帰を働きかけてきた。米国との二国間協定では、米国に有利な条件を押し込まれるとの懸念があったからだ。

 だが、9月の日米首脳会談では、(1)日米貿易物品協定(TAG)の交渉開始と、(2)TAG交渉妥結後に、物品貿易以外のサービスや投資などの課題について交渉することが共同声明で同時にうたわれた。