「さすがに仕込むね、このクラブは。去年と同じことでは済まさない、という感じですね」

 中村が言及した去年とは、2017シーズンのJ1最終節が行われた12月2日。首位の鹿島アントラーズに勝ち点2ポイント差の2位でキックオフを迎えたフロンターレは、すでにJ2への降格が決まっていた大宮アルディージャを5-0で一蹴。ホームの等々力陸上競技場で人事を尽くした。

 果たして、同時間帯に行われていた一戦で、アントラーズがジュビロ磐田とスコアレスドローに終わったという天命が訪れる。勝ち点72で並び、得失点差で抜き去ってのJ1初制覇が決まったものの、ひとつしかない優勝シャーレは、アントラーズが戦っていた敵地ヤマハスタジアムで待機していた。

 Jリーグ側は優勝シャーレの写真を貼り付けた特製ボードを用意し、セレモニーでフロンターレに手渡した。しかし、クラブの悲願でもあった初タイトル獲得を祝う光景が、ボードだけではいかにも寂しい。そこで用意されたのが、底の部分にシャーレの写真を貼り付けたヒノキ製の風呂桶だった。

「最初は『えっ、何で』と思いましたけど、それもウチらしくていいかなと」

 逆転優勝をもぎ取った一報を知った直後からピッチの上に突っ伏し、人目をはばかることなく号泣した中村は、手作り感満載の風呂桶を手にした時には笑いをこらえるのに必死だった。

昨年の優勝後、風呂桶は爆売れ!
風呂桶に隠されたフロンターレの苦闘の歴史

 もっとも、ここで素朴な疑問が残る。なぜ風呂桶が数個用意され、選手たちに手渡されたのか、と。

 もちろん、クラブ名称のフロンターレと風呂桶を、駄洒落感覚で引っかけただけではない。実はこの「風呂桶」にこそ、Jクラブの中では後発組に属するフロンターレがJ1の舞台に定着し、上位戦線を争う強豪へ成長し、地域の老若男女から愛され、長く悲願としてきたタイトルを立て続けに手にするまでに至った理由が凝縮されている。