引きこもる長男の自死を通じて家族のあり方を描いた映画『鈴木家の嘘』。自らの経験を基にしたこの映画を通じ、野尻監督は自分の兄がなぜ死んだのか、今も答えを探している(C)松竹ブロードキャスティング

『鈴木家の嘘』監督が語る
引ききこもっていた兄の自死

 引きこもる長男の自死を通じて家族のあり方を描いた映画『鈴木家の嘘』が、11月16日から全国で上映される。

 監督・脚本は、『舟を編む』『恋人たち』『セトウツミ』などの作品の助監督を務めてきた野尻克己さん(43歳)。監督デビュー作であり、脚本も手がけた同作品は、野尻さん自身、兄が引きこもり状態の末に自ら命を絶った当事者家族としての経験を基にしたストーリーだ。

 映画では、鈴木家の長男がある日突然、自らこの世を去る。ショックで記憶を失った母のため、遺された父と妹がウソをついて「お兄ちゃんは引きこもりをやめ、アルゼンチンでエビの仕入れ担当として働いている」ように装い、回復した母親を「お兄ちゃんは学者肌だったから、伸び伸び働くほうが向いている。信じていた」と喜ばせる。そして、なぜ長男は自ら亡くなっていったのか、家族がそれぞれの目線を通して問いかけていく。

 引きこもっていた兄の思い出を通して家族に向き合う、そんな重いテーマを選んだきっかけについて、野尻さんはこう話す。

「それまでは、あまり家族のこととか考えてこなかったのですが、兄を失ったとき、身体の一部を持って行かれるくらい、凄い喪失感を味わったんです。そのときから、家族って何だろうって考え始めて、生きることに密接しているんですね。

 家族の死という、1人の命を映画で扱う以上、生半可な気持ちではつくってはならないと思った。それとは矛盾しますが、作品がより多くの人に届くように、人の思いやりが見える喜劇にするという枷を自分に与え、脚本を書き始めました」