確固たる地位を確立した「イエローテイル」の革新性

 そんな厳しい競争のなか、アメリカで輸入ワインナンバーワンを獲得したブランドがあります。オーストラリアで生産される「イエローテイル」です。お手ごろな価格に加え、常に一定の品質を保つイエローテイルは、ワイン業界のユニクロ的な存在で、幅広いファンを獲得しています。

ワイン業界のユニクロ!? ワラビーのラベルでお馴染み「イエローテイル」の革新性 ワラビーのデザインが特徴的なイエローテイルのラベル

 イエローテイルは、1957年にイタリア・シチリアからオーストラリアへ移住したフィリッポとマリアのカセラ夫妻により生まれました。イエローテイルがアメリカに受け入れられ、ナンバーワンとなった要因はブルーオーシャン戦略に徹したことです。イエローテイルは「気楽に楽しく飲む」というコンセプトに徹し、それまでワインのメインターゲットとなっていた上流層ではなく、ビールやカクテルを飲んでいた層に狙いを絞りました。

 ぶどう品種や熟成などにこだわらず、広告宣伝も明るくポップなイメージに徹し、「ただシンプルに、手軽に楽しむ」というコンセプトを一貫して出し続けたのです。その戦略は見事にはまり、2001年に初めてアメリカでイエローテイルが販売された際には、当初の予定数をはるかに超える100万ケース(1200万本)もの販売数を達成しています。

 実際、その年からはニューヨークのデリでもイエローテイルをよく見かけるようになりました。ニューヨークには日本のコンビニのような「デリ」と呼ばれる24時間営業の小さなスーパーがあります。全体的に古くて暗いお店が多く、売れ筋やトレンド商品を並べることはありませんが、マンハッタンのいたるところにあり、ニューヨーカーのほぼ全員が利用している生活に密着したお店です。

 私も、今までビールしか扱っていなかったデリでワインを見たのは初めてだったので、イエローテイルが並んだときのことはよく覚えています。イエローテイルがワイン好き以外を狙っていたのは明らかでした。

 急速にその人気を高めていったイエローテイルは、2003年には全世界で500万ケースの販売を達成しています。2006年には1時間に3万6千本もの瓶詰めが可能な世界一速い生産ラインを導入し、2008年には売上が1千万ケースに達しています。そして現在では、全世界で10億本も飲まれる世界的なブランドになったのです。今でもニューヨークの街に行くと、ワラビーをデザインしたかわいいイエローテイルのラベルがいたるところで目につきます。