世界標準の教養として、特に欧米で重要視されているのが「ワイン」である。ビジネスや政治において、ワインは単なる飲み物以上の存在となっているのだ。そこで本連載では、『世界のビジネスエリートが身につける 教養としてのワイン』の著者であり、NYクリスティーズでアジア人初のワインスペシャリストとしても活躍した渡辺順子氏に、「教養としてのワイン」の知識を教えてもらう。
「ヌーボー」とはどういう意味?
ブルゴーニュ地方のボジョレー地区は、ガメイ種のぶどうでつくる熟成のいらない早飲みワインで有名です。ボジョレーは、ブルゴーニュのほぼ半分に相当する広大な土地を持ち、膨大な生産量を誇ります。乾燥した寒い冬、日射量の多い暑い夏が続き、ブルゴーニュの中で最も気候的に恵まれている土地でもあるのです。
皆さんも、このボジョレーという名を聞いたことがあると思います。そう、あの毎年秋に話題になる「ボジョレー・ヌーボー」の生産地です。ボジョレー・ヌーボーとは、ボジョレーでつくられる「ヌーボー(新酒)」という意味です。通常、ワインは9月から10月にかけて収穫をおこない、ぶどうを潰して発酵させ、しばらく寝かしてから出荷されます。この熟成期間は、品質や産地を守るために、国が地区ごとに法律で定めています。
たとえば、ボルドーでは赤ワインで12~20ヵ月、白ワインでは10~12ヵ月の樽熟成が定められています。一方でボジョレー・ヌーボーは、わずか数週間の熟成期間で出荷していいと決められており、その最初の出荷日が「解禁日」と呼ばれる11月の第3木曜日なのです。
日本で「ボジョレー解禁」が盛り上がる理由
日本では、時差の関係で本国フランスを差し置き、世界でいち早くボジョレーが飲めるということで、バブル時代は日本中がボジョレーに熱狂し、大きな話題を集めました。その流れは現代まで受け継がれ、今でも日本では解禁日に多くの人がボジョレーを買い求めています。ボジョレーで生産されるワインの約半数は国外に輸出されていますが、ボジョレー・ヌーボーに関してはその大半が日本への輸出だそうです。
ちなみに、私も同じ時期にパリに滞在していたことがありますが、日本のようにヌーボーをお祝いしている光景はほとんど見られませんでした。しかし、この「ボジョレー解禁」があることで、ワインに馴染みの薄い私たち日本人は、ワインを身近に感じることができます。「ボジョレー解禁」は、日本人とワインをつなぐ素晴らしいイベントでもあるのでした。