中国の経済がこれまで急速に発展してきた要因の1つは、内陸から出稼ぎ労働力が豊富で、しかも賃金が安かったからだ。近年経済が一段落して都会のインフレが進み、生活コストが年々高騰してきたゆえに、都会で働くメリットが少なくなった。サービス業などの労働集約型産業や過酷な労働を強いられる職場はどこも人手が不足している。当然、これはサービスの低下にもつながる。

 筆者が体験した具体例を挙げよう。

 筆者は中国に出張した際、同じホテルを利用することが多い。フロントやスタッフとも顔見知りであり、いろいろと話を聞く機会がある。

 そこで最近、強く感じるのが従業員の教育不足だ。例えば、数ヵ月前、筆者が上海都心一等地の老舗となる五つ星ホテルに連泊した時の出来事である。

 洗面台に置いていたコンタクトレンズ用のケースが連日無くなっていたのだ。たまたま予備もあり、多めには持参していた。とはいえ、毎日同じことが起きたので、耐えかねて支配人に訴えた。

 その後、ホテル側が調べて支配人から返事がきたのだが、その内容に驚愕した。

 なんと清掃スタッフはコンタクトレンズ用ケースなるものを今まで見たことがなく、「コンタクトレンズ用のケースとは知らず、ゴミと思って捨てていた」とのことだった。

 そして、支配人は続けた。

「以前は、清掃スタッフを募集すると、3ヵ月間の研修期間を設け、さまざまな教育研修と練習を重ねて初めて、仕事の現場に送り出したものです。しかし、今では募集しても人が集まらないため、わずか1週間の研修で、すぐ働いてもらわないと間に合わない。ゆえに、教育が不十分であり、お客様から苦情が増え、対応に追われて疲れている」と……。

 私は「え!?」と驚いた。

 筆者が苦情を言ったつもりだったのに、逆に支配人から愚痴をこぼされる始末だった。