「低炭水化物ダイエットは正解か?」
「脳が砂糖をやたら欲しがるのはなぜか?」
「食べた分だけ動けば確実にやせるのか?」
「カロリーを減らせば体重は減るのか?」

これらの「食事の疑問」に答えつつ、「人が太るメカニズム」を医学的に徹底解明したNYタイムズベストセラー『果糖中毒』が9/13に発売され、直後に重版が決定した。

アメリカの一流メディカルスクール教授が229の医学論文から「食事の正解」を導き出し、「健康な脳と体」に戻るための処方せんをあざやかに提示したとして、原書はアメリカで12万部を超え、アマゾンレビュー987件、平均4.6と高評価をたたき出した。

最新のWHO統計によると、現在世界で約19億人が「体重過多」、約6億5000万人が「肥満」だという。これは世界中の人々が運動を怠けて、食べ過ぎた結果なのか? 『果糖中毒』では、「肥満は自己責任論」を全面否定し、現在の「肥満の世界的大流行」は糖分、特に「果糖」が主な原因だと結論づけている。

では、どうしたら「果糖」を遠ざけ、肥満を解消することができるのか。著者であるロバート・H・ラスティグ医師は「ホルモンの機能異常を解決すれば、肥満人口の多くは成果を上げられる」と指摘する。

前回の記事では、「インスリンを減らす」(食物繊維を取り、糖分を減らし、運動する)方法と、「グレリンを減らす」(朝食にタンパク質をとり、寝る4時間前から食べない)方法を紹介した。引き続き、ホルモンを正常化するために何をすればよいのか解説する。

(本記事は『果糖中毒』の抜粋です)

行動3 ペプチドYYを増やす
――おかわりは20分間待ち、食物繊維をとる

おかわりを20分待つと満腹感を抱きやすい続・ホルモンを正常化して肥満を解決する方法

 ある子がお皿の上の料理をペロリと平らげて言う。「おかあさん、まだお腹が空いてるよ」。子どもにひもじい思いをさせたくないし、むずかられるのも嫌な母親は、おかわりをよそう。本書を読んでいる親御さんたち、こうしたことがどれほど頻繁に起きているだろうか? 毎日? 毎食?

 今度は、本書を読んでいる大人の方に聞こう。ハンバーガーにむしゃぶりついたばかりなのに、なぜすぐに2個目を食べようとする? 「満腹感」という現象と「空腹感がない」という現象には、大きな違いがある。胃袋に食べ物を入れるとグレリンのレベルは下がる。だが、だからといって、それ以上食べないということにはならない

 満足感のシグナル(食事をやめさせるスイッチ)はペプチドYY(3-36)〔PYY〕だ。胃とPYY細胞のあいだには6.7メートルほどの腸があり、食べ物がPYY細胞に達するまでには時間がかかる。だから、待ってあげよう。日本には「腹八分目」という格言がある。だが、これをアメリカでやるのは、とてもむずかしい。

 うまくやる鍵は、おかわりや2個目を食べる前に20分間置くことだ。それから、最初に食べる1人前が適切な量であることにも注意を払おう。たとえ、おかわりや2個目を食べなくても、食事の量を「スーパーサイズ化」してしまったら、同じように自分の体にダメージを与えてしまう。

 PYYを増やす最良の方法は、食べた物を腸内で素早く移動させること。それは食物繊維の役目だ。そして食物繊維を手に入れる最良の方法は、本物の食べ物を食べることである。

行動4 コルチゾールを減らす
――運動する!

 さて、これは簡単ではない。コルチゾールは、あなたの短期的な友人で、長期的な敵だ。コルチゾールを低く抑えること、つまりストレスを低く抑えることは、実質的に不可能だ。

 現代は、かつてないほどストレス因子にあふれ、それに対処する自然な方法というものもない。私たちの祖先は襲ってくるライオンから走って逃げただろう。でも、激怒する上司から全速力で逃げるようなことは、情けない行動だとみなされる。

 ストレスが拍車をかける食べ方への対処は、最も克服がむずかしい問題と言っていいかもしれない。なぜなら、まず、本当の原因は「ストレス」にではなく「ストレスへの反応」にあるからだ。これは遺伝的なものかもしれないし、生まれる前に運命づけられたものかもしれない。そして、単なる意志の力では解決できない可能性が高い。

 次に、過剰なコルチゾールは内臓脂肪とインスリン抵抗性とさらなる食物摂取を促すため、メタボ症候群にとっては三重苦になる。最後に、コルチゾールは扁桃体のアウトプットをポジティブ・フィードバック、つまり悪循環に変えてしまう。

 こうして、より多くのコルチゾールが扁桃体をより多く活性化するようになり、その後、さらにコルチゾールが増えるようになってしまうのだ。

 ストレスが人生からなくなることはないため、過食がなくなることもない。ストレスに対する対処メカニズムが不十分で、人生のあらゆることがうまくいっていないような場合には、自分のトラブルを無視するのはとてもむずかしく、問題はさらに膨れ上がってしまう。

 実は、コルチゾールを減らす簡単で安くて効果的な方法がある。それは運動だ。運動中はコルチゾールのレベルが上がるものの(ブドウ糖をかき集め、脂肪酸を解放してエネルギーに変えるため)、その日1日コルチゾールのレベルを低く抑えてくれる。運動は、筋肉内で脂肪を燃やして筋肉のインスリン感度を上げ、肝臓内で脂肪を燃やして肝臓のインスリン感度を向上させる。

 私たちのクリニックのルールは、運動した時間だけ、「スクリーンタイム」に使っていいというものだ。つまり、1時間テレビを見たり、コンピューターゲームをしたりしたかったら、1時間スポーツをするのである。これは、家庭では特にむずかしい。なぜかというと、親はテレビをベビーシッターの代わりに使う傾向があるし、現代の子どもたちはコントローラーを使ってするスポーツのほうを好むからだ。

 多くの親は、赤ちゃんが子宮から出てくる前から、どこの大学に通うことになるかなどと夢想し始める。そんな親の期待のプレッシャーを感じとった子どもたちは、気分、活動、勉強に悪影響が出る。現代の子どもたちが抱えているプレッシャーはとてつもなく大きい。期待されていることすべてをやる時間など、どこにあるというのだろう?

 ここに、本書のなかで最も重要な子育てのアイデアがある。もしお子さんがソフトドリンクを飲むのをやめて運動をするようになったら「時間が作れるようになる」のだ。もしお子さんが1時間活発に運動したら、5時間かかる宿題は4時間で終わるだろう。集中力が高まり、効率が上がるからだ。お子さんはこうやって時間を作り出せる。

 アメリカのあらゆるところで行われた多くの研究が、運動を増やすと、子どもたちの学業成績と行動が向上することを示している。この本を読んでいる親御さんたち、時間を作り出すことこそ、21世紀の生き方だ。1日の時間を増やすことはできなくても、お子さんの生産性を高めることはできる。

 残念なことに、お子さんの通っている学校は、きっとこのことを理解していないだろう。彼らは言う。「子どもたちが標準テストに受かるような教育をしなければならないんです。でなければ、『落ちこぼれ防止法』〔ブッシュ政権の教育政策の柱で、その後法制化された〕によって、教育資金を取り上げられてしまいますから」と。

 教師たちよ、ここにあなたたちが知るべき情報がある。「落ちこぼれ防止法」は、実際には「子どもの前進を阻む法」かつ「反対する教師をゼロにする法」でしかないのだ。教師たちよ、学校で子どもたちを運動させなさい。毎日の時間割から45分間を割いて、汗をかくほど全力で動き回る運動に費やさせなさい。そうすれば、子どもたちの学業成績も上がるし、行動も改善されるはずだ。

(本原稿は書籍『果糖中毒』からの抜粋です。訳者による要約はこちらからご覧になれます)

著者について
ロバート・H・ラスティグ(Robert H. Lustig)
1957年ニューヨーク生まれ。カリフォルニア大学サンフランシスコ校小児科教授。マサチューセッツ工科大学卒業後、コーネル大学医学部で医学士号を取得。2013年にはカリフォルニア大学ヘイスティングス・ロースクールで法律学修士号(MSL)も取得。小児内分泌学会肥満対策委員会議長や内分泌学会肥満対策委員会委員などを歴任。「果糖はアルコールに匹敵する毒性がある」と指摘した講義のYouTube動画「Sugar: The Bitter Truth(砂糖の苦い真実)」は777万回以上視聴されるほど大きな話題になった。
中里京子(なかざと・きょうこ、訳者)
翻訳家。訳書に『依存症ビジネス』(ダイヤモンド社)、『ハチはなぜ大量死したのか』(文藝春秋)、『不死細胞ヒーラ』(講談社)、『ファルマゲドン』(みすず書房)、『チャップリン自伝』(新潮社)ほか。