「低炭水化物ダイエットは正解か?」
「脳が砂糖をやたら欲しがるのはなぜか?」
「食べた分だけ動けば確実にやせるのか?」
「カロリーを減らせば体重は減るのか?」
これらの「食事の疑問」に答えつつ、「人が太るメカニズム」を医学的に徹底解明したNYタイムズベストセラー『果糖中毒』が9/13に発売された。
アメリカの一流メディカルスクール教授が229の医学論文から「食事の正解」を導き出し、「健康な脳と体」に戻るための処方せんをあざやかに提示したとして、原書はアメリカで12万部を超え、アマゾンレビュー987件、平均4.6と高評価をたたき出した。
最新のWHO統計によると、現在世界で約19億人が「体重過多」、約6億5000万人が「肥満」だという。これは世界中の人々が運動を怠けて、食べ過ぎた結果なのか? 『果糖中毒』では、「肥満は自己責任論」を全面否定し、現在の「肥満の世界的大流行」は糖分、特に「果糖」が主な原因だと結論づけている。
ここで『果糖中毒』の一部を特別に無料で公開する。
肥満に立ち向かう
最強の武器
砂糖に含まれるブドウ糖はインスリンの量を上昇させ、果糖はおびただしい量のエネルギーを肝臓に直接送って、ただちに処理させようとする。そして両方とも、肥満とメタボ症候群を押し進める。
食物繊維は、インスリンレベルを低く保ち、エネルギーが肝臓に押し寄せるのを抑えることによって、肥満とメタボ症候群との闘いを助ける。その特性は次の5つだ。
特性1 血糖値の上昇をゆるやかにする
食物繊維(水溶性と不溶性)を食事でとると、食物と腸壁のあいだにゼラチン質のバリアができ、腸がブドウ糖、果糖、脂肪を吸収する速さが緩やかになる。ブドウ糖の吸収が緩やかになると、血糖値の上昇も緩やかになり、ピークの値も下がる。
これを受けて、血糖値の上昇が緩やかで、かつ低くなったことを察知した膵臓は反応を弱め、放出するインスリンの量を減らす。インスリンの量が減ると、脂肪に変わるエネルギーの量も減る。2型糖尿病の患者が高食物繊維食をとると、血糖値が3分の1低くなるため、体内の総インスリン負荷も下がる[1]。
果糖の吸収についても同じことが起きる[2]。食物繊維は果糖の吸収量を下げるだけでなく、「流速」、つまり吸収された果糖が肝臓細胞に押し寄せるスピードも下げる。
こうして肝臓は処理に「追いつく」ことができるようになり、新たな果糖がやってくるペースに合わせて、果糖分子をアセチルCoAに変換できるようになる。これにより、アセチルCoAは、ミトコンドリアのクエン酸回路で燃やされるようになる。
もはや、果糖がミトコンドリアに押し寄せたあと、それを処理しきれなくなったミトコンドリアに追い出されて脂肪に変えられ、インスリン抵抗性を引き起こす、という状況はなくなる。
そのため、果糖を含んでいるフルーツを食べても、果糖の影響の大部分が食物繊維の存在によって緩和されるため、さほどたいした問題にはならないのだ。
特性2 悪玉コレステロールのレベルを下げる
大きな母数集団では、血中コレステロール濃度が低いと、心臓病の発生率も低いという関連性が見出されている。コレステロールの目的の1つは、胆汁酸(腸にある脂肪の吸収を助ける)の生成を促すことで、胆汁酸の一部は大便に排出される。
そのため、胆汁酸をなくすことができれば、コレステロールのレベルも下げられる。水溶性食物繊維は胆汁酸に結び付くので、LDL(悪玉コレステロール)を下げることができる。不溶性食物繊維もまた、コレステロールのレベルを下げ、血糖値を低く抑えるのに役立つ。
特性3 早く満腹感を感じさせる
あなたはマカロニ・アンド・チーズ〔チーズソースがかかったマカロニ料理〕を一皿食べたのに、まだ空腹だ。なぜだろう? 胃のなかに食べ物があると「グレリン」のレベルが低下するので、視床下部に、もう空腹ではないと知らせるはずなのに、あなたはまだ食べ足りない。
その理由はこうだ。「空腹感がない」という現象は「満腹感を抱く」という現象とは違うのである。食べ物が小腸を通り抜けるときには、ペプチドYY(3-36)(PYYとも表記される)と呼ばれるホルモンが血中に放出され、視床下部にある受容体に結合して満腹であることを知らせる。
PYYは満腹シグナルだ[3]。問題は、PYYシグナルを生成するには、食べ物が腸のなかを7メートル近く進んでいなければならないことである。それには時間がかかる。そのため、腸のなかで食べ物を速く動かせるものならなんでも満腹シグナルを早く生成させることになる。
不溶性食物繊維は、まさにこの役目にぴったりだ。食べ物が腸内を移動するスピードを加速して、PYYシグナルを早く生成させる。水溶性食物繊維は粘性のゲル状物質になって、胃から食物が出るのを遅らせることにより、早く満腹感を感じさせる。どちらのタイプの食物繊維も、おかわりの必要性を減らし、さらなる体重増加を防いでくれる[4]。
特性4 食事性脂肪の吸収を遅くする
食物繊維があると、一部の食事性脂肪は小腸で吸収される速度が遅くなる。食物繊維のおかげで速度が遅くなった食事性脂肪は結腸まで進む。そこでは吸収は起きないので、インスリンのレベルを低く抑えることができる[5]。
いまだに議論の余地はあるものの、肥満とインスリン抵抗性に対する効果は、水溶性食物繊維より不溶性食物繊維のほうが大きいと考えられている。
このプロセスの欠点は、この過程で食物繊維は、大量の窒素、二酸化炭素、メタン、そして少量の硫化水素を生成することだ。言わば、脂肪(ファット)をとるか、それともおなら(ファート)をとるか、なのである。
特性5 腸の善玉細菌を増やし、「太らせ因子」を食い止める
人間の体には、約10兆個の細胞がある〔60兆個あるいは37兆個とする説もある〕。だがあなたの腸に住んでいる細菌は、なんと約100兆個だ。彼らはヒトを10倍もの数で圧倒しているのだ!
長年にわたり腸内細菌は、無賃乗車して不適切なときにガスを放ち、ときどき「旅行者下痢」に乗っかって出ていくだけのものと考えられていた。
だが実のところ腸内細菌は、私たちのエネルギー代謝の大きな部分を担っている。腸内細菌の大部分は大腸に住み、嫌気性だ。つまり、酸素抜きに代謝を行うので、酸素を使って燃焼を行うものより、多くのエネルギーをムダにする。
でも、もしすべての栄養素(脂肪、ブドウ糖、果糖を含む)が小腸で吸収されるのなら、大腸に住む細菌が食べるものなど残っているのか、と思われるだろう。
実は、彼らが食べるのは、体が吸収できないもの、すなわち食物繊維、それも特に水溶性食物繊維なのだ。これこそ、オオバコなどに由来する食物繊維のサプリメントが、あれほどのガスを発生させる理由である。
腸内細菌は数千種類もあるが、科学界では、これまで3種類に的を絞って研究してきた。つまり、バクテロイデス門、フィルミクテス門、古細菌だ。腸内の細菌構成が、ある種の人々の体重増加を促す一因になっていることは、ほぼ確実である。そして食生活の食物繊維構成は、腸内細菌のプロファイルを決定する一因になっている[6]。
というのも、食物繊維はより多くの栄養素を腸の奥深くにもたらし、そこにいる腸内細菌が、それらをエネルギーに利用するからだ[7]。
すべてを総合すると、食生活の食物繊維内容を変えることは、腸内細菌の内容を変えることになり、「善玉」細菌を増やして、「太らせ因子」となる細菌を食い止めることができる[8]。
[2] R. Levine (1986) “Monosaccharides in Health and Disease,” Annual Review of Nutrition, 6: 211-4.
[3] C. J. Small et al. (2004) “Gut Hormones and the Control of Appetite,” Trends in Endocrinology and Metabolism, 15 (6): 259-63.
[4] P. D. Cani et al. (2009) “Gut Microbiota Fermentation of Prebiotics Increases Satietogenic and Incretin Gut Peptide Production with Consequences for Appetite Sensation and Glucose Response after a Meal,” The American Journal of Clinical Nutrition, 90 (5): 1236-43.
[5] D. Lairon et al. (2007) “Digestible and Indigestible Carbohydrates: Interactions with Postprandial Lipid Metabolism,” The Journal of Nutritional Biochemistry, 18 (4): 217-27.
[6] G. D. Brinkworth et al. (2009) “Comparative Effects of Very Low-Carbohydrate, High-Fat and High-Carbohydrate, Low-Fat Weight-Loss Diets on Bowel Habit and Faecal Short-Chain Fatty Acids and Bacterial Populations,” The British Journal of Nutrition, 101 (10): 1493-502.
[7] R. Krajmalnik-Brown et al. (2012) “Effects of Gut Microbes on Nutrient Absorption and Energy Regulation,” Nutrition in Clinical Practice, 27 (2): 201-14.
[8] G. D. Wu et al. (2011) “Linking Long-Term Dietary Patterns with Gut Microbial Enterotypes,” Science, 334 (6052): 105-8.
(本原稿は書籍『果糖中毒』からの抜粋です。訳者による要約はこちらからご覧になれます)
ロバート・H・ラスティグ(Robert H. Lustig)
1957年ニューヨーク生まれ。カリフォルニア大学サンフランシスコ校小児科教授。マサチューセッツ工科大学卒業後、コーネル大学医学部で医学士号を取得。2013年にはカリフォルニア大学ヘイスティングス・ロースクールで法律学修士号(MSL)も取得。小児内分泌学会肥満対策委員会議長や内分泌学会肥満対策委員会委員などを歴任。「果糖はアルコールに匹敵する毒性がある」と指摘した講義のYouTube動画「Sugar: The Bitter Truth(砂糖の苦い真実)」は777万回以上視聴されるほど大きな話題になった。
中里京子(なかざと・きょうこ、訳者)
翻訳家。訳書に『依存症ビジネス』(ダイヤモンド社)、『ハチはなぜ大量死したのか』(文藝春秋)、『不死細胞ヒーラ』(講談社)、『ファルマゲドン』(みすず書房)、『チャップリン自伝』(新潮社)ほか。