誰にも迷惑をかけずに
決断することなどできない

  出馬を決意したものの、あまりに突然のタイミング――。

 朝の番組のメインキャスターをどう辞めればいいのか。どう番組関係者に伝えようか。どの順番で誰に相談しようか……。まだ頭の中がまったく整理できていないなか、突然8月26日木曜日の朝刊にこうスクープされました。「自民、民放アナ擁立(ようりつ)検討」そこからはあまり記憶も定かではないくらいの大騒ぎの日々でした。

 スクープが出た日の21時過ぎ。会社の役員から、社長の言葉を伝えるための電話がかかってきました。「このあと、朝4時(番組の準備が始まる時間)までに選挙に出るのか出ないのか結論を出せ」と言うのです。

 もし選挙に出ないという結論を出したのであれば、番組の中で「私が市長選挙に出るという噂がありますが、これは間違いです」と否定すること。そうでなければ明日からキャスターは交代だ、と言われました。視聴者のみなさんに「ありがとう」も「さようなら」も言っていないのに、明日にはもう番組に出られないのです。

 そんな折、私のピンチヒッターをするかもしれない同期の宮本啓丞(みやもとけいすけ)アナウンサーから電話がかかってきました。

「ひとりで悩んでいても仕方がないから会社に来い」

 私はとりあえず会社に行くことにしました。深夜2時ぐらいだったと思います。会社ではたくさんのスタッフがいつもどおり放送に向けて作業をしていました。なんとも言えない、ぎこちない雰囲気が流れています。スタッフの中にもいろんな話がまわって、みんな動揺していたのでしょう。

 そんな中、芸能コーナー担当の藤井聖也(ふじいせいや)くんという若いディレクターが、静かにその日の進行表を持ってきてくれました。進行表には、いちばん左に時間が書いてあり、上から順に、その日の流れやカメラ割りなどが書かれています。当然、その日の進行表にも、いろんなところに「高島」と書かれています。

 藤井くんは私にそれを見せながら「これ見てください。この番組は高島さんを中心にできている番組です。他の人じゃないんです」と言うのです。視聴率を上げるべく、一緒にがんばってきた仲間のその言葉を聞いたときがもっともつらく、心が大きく揺れました。強く出馬の決意を固めていたはずだったのですが、正直かなり動揺しました。

 私の決断は、一緒に仕事をしていたまわりの人にとっては、迷惑以外の何物でもありません。自分が逆の立場であれば、一緒に仕事をしている仲間が「選挙に出るんで会社辞めます」と突然言い出したら「ちょっと待て、このプロジェクトはどうするんだ」「ふざけるな」という気持ちになるでしょう。

 私も、できれば3月末や番組改編の時期に合わせて区切りをつけたいと思いました。しかし話が来たのは8月末。選挙は11月。選挙告示まで2ヵ月ちょっとしかない、というタイミングでした。

 それでもやはり、私は出馬することに決めました。