100業種・5000件以上のクレームを解決し、NHK「クローズアップ現代+」、日本テレビ系「スッキリ!」、フジテレビ系「ノンストップ!」などでも引っ張りだこの株式会社エンゴシステム代表取締役の援川聡氏。
近年増え続けるモンスタークレーマーの「終わりなき要求」を断ち切る技術を余すところなく公開した新刊『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』に需要が殺到。続々大重版が決まり、発売3ヵ月あまりで現在3万5000部と異例の売れ行きとなっている。
本記事では、近年増えている「先生」や「公務員」など公共サービスに対するクレームの特徴と、クレーマーの危険度を見極める1つの方法を特別公開する。(構成:今野良介)
増加する「公共サービス」へのクレーム
モンスタークレーマーから理不尽な要求を突きつけられる担当者は、過重なプレッシャーを受けて疲労困憊します。ときには、心が折れそうになることもあるでしょう。
とりわけ責任感の強い、真面目な人は、ノイローゼになったり、クレーマーの言いなりになったりする危険性が高いと感じます。
クレーム対応で失敗する大きな原因は、実は、「絶対に失敗はできない」という意識です。言い方を換えれば、「100点満点の対応をしよう」と、自分で自分を追い詰めてしまっているのです。また、「人前で恥はかきたくない」と身構えているうちに、自分を見失ってしまうケースもあります。
その典型が「先生」と呼ばれる人々です。医師や教師などが、モンスタークレーマーを前に、身を縮ませているケースが多いのです。「モンスターペイシェント(患者)」による暴言や暴力によって、退職する看護師や転勤する医師は後を絶ちません。また、晴れて教師になった青年が、「モンスターペアレント」の執拗なクレームが原因で、うつになってしまうことも珍しくありません。
とある病院の事例を紹介します。
--------市立病院の事例----------
70代前半と思しき男性患者が「やっと診てくれるんですね」とつぶやきながら、憮然とした表情で診察室に入ってきた。
「咳がとまらない」と訴えていた男性は、X線検査を受けたあと、医師の診察を受けることになっていたのだが、待合室でもう1時間以上も待たされていた。
30代の若い医師は、険悪な空気を感じながらも診察を行い、机上のディスプレイに映し出された患者のレントゲン写真を見ながら言った。
「とくにヘンな影はないようです。咳喘息ですね」
ところが、医師の所見に対して、男性は白髪をかき上げながら強い口調で反論した。
「どうしてそう言い切れるんだ? 肺気腫の疑いだってあるだろ!」
「断定しているわけではないんですが……。えぇーっと、COPD……つまり慢性閉塞性肺疾患のことを心配されているんですね。それなら……」
男性の勢いに気圧された医師は、しどろもどろになってしまった。
「なんだ、この若造が! おまえは医者失格だ。辞めてしまえ!」
医師は、男性の突然の変貌ぶりに、その場から逃げ出したくなる思いだった。
(了)
最近は、ネット検索で集めた情報で、「理論武装」して来院する患者さんも少なくありません。正確ではない知識であることも多々あるようですが、健康に大きな不安を抱えた患者さんにしてみれば、自分で調べた情報と医師の処方が異なれば、不安になるのも仕方ありません。
医師には、そうした患者も納得できるような説明力が求められるのですが、上記のケースでは、若い医師が、専門用語を使ってその場を取り繕おうとしたことが、かえって男性のイライラを募らせてしまったケースです。
また、役所などの公共機関の職員も、クレーマーの対応に困っている現状があります。
役所の職員に投げかけられる、クレーマーの「決めゼリフ」があります。
「公務員でいい身分だな!」
「アンタに給料を払うのは税金の無駄だ!」
などと罵声を浴びせられたり、
「こんなとき、オマエならどうするんだ?」
などと問い詰められたりすると、萎縮して何も言えなくなってしまうのです。
たとえ相手がモンスターであっても、「もう来るな」とは言えないのが役所の辛いところです。
クレーマーは3つの人種に分けられる
さて、こうしたクレーマーに出会ってしまった際の初期対応について、1つの基本的な考え方があります。クレームを「ホワイト」「ブラック」「グレー」の3つのゾーンに区分して、対応を変えるのです。