米アップルと韓サムスン電子の訴訟合戦が激しさを増している。

 アップルが、米国で特許権や商標権が侵害されているとして、サムスン電子を訴えたのは4月18日のこと。訴えた内容は、スマートフォンなど携帯情報端末について、タッチパネルの操作方法が酷似している点などだ。

 対するサムスンは、困惑しながらも黙ってはいなかった。すぐさまアップルに対し、5日後の23日には、特許権を侵害しているのはアップルだとして逆提訴に踏み切った。

 その後も両社は一歩も譲らず、互いに相手の本国での提訴に発展するなど、この訴訟は泥沼の様相を呈しはじめている。もっとも、このような知財を巡る特許訴訟は、互いの持つ特許を相互利用するクロスライセンス契約において、特許使用料の価格交渉に用いるという一面もあり、ハイテク企業同士の駆け引きとしてさほど珍しい話ではない。しかし、ここまで激しい訴訟合戦となったことに、業界の関係者たちは驚きを隠さない。なぜか。

 確かに、アップルとサムスンはスマートフォンやタブレット端末の販売で、世界中のマーケットでしのぎを削っている。アップルのiPhoneとiPad、サムスンの「ギャラクシー」シリーズを知らない人はもういないだろう。だが、その一方で、これらアップル製品を構成する主要部品の多くが、サムスン製品だということはあまり知られていない。

 たとえば、iPhoneやiPadの心臓部分であるCPU(中央演算処理装置)。CPUを設計しているのはアップルだが、その設計に従って製造を一手に引き受けているのは、じつはサムスンだ。他にもある。NAND型フラッシュメモリやDRAMの半数近くをサムスンが納めているのだ。

 つまり、両社は完成品では競い合う関係だが、こと商品の製造に関しては、アップルはサムスンにとって重要顧客であり、親密先となる。そのことをよく知る業界関係者たちは、ここまでの泥仕合へと発展したことに、驚いているというわけだ。

 そして、アップルとサムスンがあえて敵対関係を露にする背景には、お互いに“依存関係”を解消しようという思惑があるからという見方もできる。実際、そのような動きは進んでいる。

 4月末に発売された「ギャラクシーSⅡ」は発売から55日で、世界で300万台売れた。日本でも、iPhoneをしのぐ売れ行きとなっている。そのため、「アップルへの供給が減っても、好調な自社のスマートフォンでまかなえるということか。ギャラクシーに自信があることの証左だろう」と業界関係者たちは話す。

 また、一方でアップルの部品調達の方向性にも変化が表れ始めている。今年の秋から来年にかけて発売されると見られている新型iPhoneやiPadでは、「サムスン外しが進んでいるようだ」(部品メーカー幹部)というのだ。

 CPUの製造を請け負うのはサムスンから台湾の大手ファウンドリ(製造受託会社)TSMCに変更になると見られる。また、NAND型フラッシュメモリではサムスンからの調達を減らし、その代わり台湾ハイニックスを増やすと見られている。

 アップルの独走を追撃し始めたサムスン。総じて厳しいデジタル家電のなかで唯一といっていいくらい好調なスマートフォン市場をめぐり、両社による真正面からのぶつかり合いは必至。この攻防は今後もますますヒートアップするだろう。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 藤田章夫)

週刊ダイヤモンド