2人の医師は手術直前も、術後に右乳房の形ができるだけ崩れないよう、慎重に議論を重ねた。乳腺エコーで確認しながら、さらに切開範囲を小さくするように修正して手術に臨んだ。手術は術前準備を含めて約1時間で無事に終わり、A子さんは病室へ運ばれた。裁判では、この病室に戻ってきた14時55分から15時12分の17分間に“事件”が起きたとされている。A子さんが上司にLINEでメッセージを送り、その男性による通報で病院に警察が急行した。

 このとき、A子さんは全身に汗をかいていたので、看護師が「体をタオルで拭いてもいいですか」と聞いたが、「つばは拭かないで。警察に採取してもらうまで乳房は拭かないで」と言ったという。その後、女性警察官がガーゼで乳房を拭き取った。

 起訴事由の趣旨は「病院の病室内において、手術後で体が自由にならない状態にあり、ベッドに横たわる女性患者に対して、診察の一環と誤診させ、着衣をめくって左乳房(*1)を露出させた上で、その左乳首をなめるなどのわいせつ行為をした」とされる。

 一方、被告人の男性外科医はその内容を、一貫して否認している。

*1 手術を受けた乳房とは反対側

犯罪の有力な証拠は指紋と、
精液・血液のDNA型判定

 この裁判の争点は「事件性の有無」、つまり、事件があったかどうかで、(1)被害者の証言の信用性、および、(2)被害者の乳房から採取されたとする付着物のDNA型鑑定、および、アミラーゼ鑑定の信用性が争われている。法廷では捜査関係者10人、専門家として医療関係者が検察側で3人、弁護側で5人の合計18人が証言した。

 事件当日、A子さんの乳首を含む乳房からガーゼで拭き取られた付着物は鑑定の結果、アミラーゼ活性検出試験で陽性反応が認められた。アミラーゼとは唾液腺や膵臓(すいぞう)から分泌される消化酵素で尿、涙・汗・血液・精液にも含まれている。DNA型判定の結果は「被告人の型と一致した」と分かった。

 さらに、A子さんの皮膚、および粘膜表面から採取された付着物であるため、通常は必ずA子さんと男性外科医の2人分のDNA型が検出される。だが、今回は男性外科医1人分のDNA型しか認められなかった。