青森山田優勝優勝した青森山田では開幕1ヵ月前に檀崎竜孔(右から3人目)から、飯田雅浩(同2人目)へのキャプテン交代があった 写真:森田直樹/アフロスポーツ

青森山田(青森)の2年ぶり2度目の優勝で幕を閉じた第97回全国高校サッカー選手権。準々決勝以降はすべて相手に先制されながらも、平成最後の冬の王者戴冠を成就させた背景には「チームを一度、ぶち壊しました」と豪語する黒田剛監督の覚悟と決意、そして我慢があった。大会直前のキャプテン交代。ロングスロー要員の大抜擢に伴うシステム変更。そして、必殺ドリブラーに課したスパルタ教育。1995年からチームを率いる48歳の指揮官をして「賭け」と言わしめた、3つの改革の舞台裏を探った。(ノンフィクションライター 藤江直人)

全国選手権開幕1ヵ月前に
キャプテンをMF檀崎からGK飯田へ

 初めてその言葉を聞いた時には、やや物騒な響きを伴っていたこともあって、少なからず驚きを覚えた。それでも、取材をする度に繰り返し発せられてきた軌跡を振り返れば、青森山田を2年ぶり2度目の、そして平成最後の冬の王者へ導いたキーワードだったことが分かる。

「言葉は悪くなるんですけど……」

 1995年から青森山田を率い、22年連続24回目の全国高校サッカー選手権出場に臨んだ48歳の黒田剛監督は苦笑しながら断りを入れた上で、大会期間中に幾度となくこんな言葉を残している。

「チームを一度、ぶち壊しました」

 黒田監督が腹を括ったのは昨年12月上旬、全国選手権が開幕するわずか1ヵ月前だった。キャプテンをMF檀崎竜孔(りく)からゴールキーパーの飯田雅浩へ交代させると、ミーティングの席で部員たちに告げた。指導者の道を歩み始めてから初めて施す荒療治だった。

 直前の12月1日に行われた高校生年代の最高峰となる舞台、プレミアリーグEAST第17節で青森山田は清水エスパルスユースに苦杯をなめ、鹿島アントラーズユースの優勝をアシストしていた。

 さらにさかのぼれば、全国選手権出場をかけた青森県大会決勝で八戸学院野辺地西に大苦戦を強いられ、昨夏のインターハイでは昌平(埼玉)に2回戦で敗退。2点をリードしながら、さらにゴールを奪おうとバランスを崩した挙げ句、4連続失点を喫する屈辱的な大逆転負けだった。