自発的に動く余地を
与えているか?

 では、従業員の意欲を引き出すにはどうしたらよいのだろうか。それには、自発的な動きが取れる余地を与えるのだ。

 経営者のAさんがいうには、これまでは仕事のやり方を細かく決め、決められた通りにやることを求めながら、「受注をもっと増やすように頑張ってくれ」「まだまだ開拓の余地はあるぞ」と叱咤激励してきた。ところが、イマドキの若手の心には響かず、シラーッとした空気が漂ったり、反発してムッとした感じになったりするばかりだった。

 従業員に積極的に動いてもらうためには、彼らの心の内側からやる気を引き出すことがいかに重要かに気づいたAさんは、従業員の自発性を尊重する方向に転換した。

 まず、Aさんは従業員1人ひとりと面談を行い、個々の性格を把握するように努めた。Eさんのように決められた枠の中で動かないと不安になるタイプには、これまで通りに仕事をしてもらい、決められた枠の中で動くのでは物足りないというBさん、Cさん、Dさんのようなタイプには、ある程度の大枠の中で自由に動いてもらう仕組みに切り替えた。

 例えば、営業担当者の場合、顧客とのやりとりの中で、数量が多ければ値引率を上げることもできるわけだが、総額が増えるのであれば、その判断は現場担当者に全面的に任せるようにした。これまでは訪問先や訪問頻度もかなり管理していたが、相手方の状況に応じて柔軟に行えるようにした。新規開拓先候補も上から与えていたが、各担当者が独自の視点で候補を抽出してよいことにした。

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 当初は「職場の雰囲気が一気に変わるものではないし、社長の気まぐれだろう」「すぐに元に戻るんじゃないか」といった疑念の声が聞かれたが、次第に従業員の自発性が引き出されるようになり、職場に活気が戻ってきた。

 いくら上から「やる気を出せ」と叱咤激励されても、自分の中から「よし、やるぞ!」という思いが込み上げてこない限り、なかなかやる気になれるものではない。そこでカギを握るのが自発的に動けるかどうかだ。

 自発的な動きが認められれば、自分を動かしているのは自分自身だと実感することができるため、「やらされ感」がなくなり、自分で自分をマネジメントしているといった前向きな気持ちになれる。

 また、任されることで承認欲求が満たされると同時に、責任感を自覚するようになる。それがさらなる意欲向上につながるのだ。

 経営者Aさんの会社のように、従業員の活力が感じられず、何でもトップダウンで決まり、現場の人間に裁量の余地があまりないというような場合は、従業員1人ひとりが自発的に動いてもらうために、仕事の自由度を高めることがカギになると思う。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。ご了承ください。