標的となった拓銀と私
1997年、北海道拓殖銀行は経営破綻した。
その「最後の頭取」となった著者は、
現在話題となっている日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告と同じ
「特別背任罪」で実刑判決を受け、1年7ヵ月を刑務所で過ごした。
大手銀行の経営トップで収監された例は、他にない。
バブル経済の生成と崩壊を実体験した生き証人は、いま84歳。
後世に伝えるバブルの教訓をすべて明かす。

逆転有罪、懲役2年6ヵ月の実刑

 2006年8月31日の昼でした。
「残念ですが、逆転有罪でした。懲役2年6ヵ月の実刑です」
 日浦力弁護士からの電話に、天国から地獄へ突き落とされた気持ちになりました。
 この日は、札幌高等裁判所で、拓銀の乱脈融資事件の控訴審の判決が言い渡される日でした。
 被告人の私は裁判所には出向かず、市内の自宅で妻と一緒に待機していました。

 伝え聞いたところによると、札幌高裁庁舎で最も大きい5号法廷で、判決文が読み上げられると、一般傍聴席は一瞬静まりかえり、ざわついたそうです。
 天国から地獄へと突き落とされたのは、私だけではありませんでした。
 同じく被告人だった山内宏・元拓銀会長も懲役2年6ヵ月、共謀共同正犯とされたリゾート開発会社のソフィアグループの中村揚一・元社長は懲役1年6ヵ月を言い渡されました。

「3人とも一審は無罪だったのに、なぜ……」
 私たちは、現在話題となっている日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン氏と同じ商法の特別背任罪に問われていました。
 旧商法の486条(現在は会社法960条)に定められていた特別背任罪は、株式会社の発起人、取締役、監査役などが、自己または第三者の利益を図る目的で、その任務に背き、会社に財産上の損害を発生させた場合に成立します。
 罰則は、10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金です。

「呼び捨てはやめて、
『さん』付けで呼びなさい」

 大まかに言えば、検察が描いたストーリーは次のようなものです。
「融資を打ち切れば、ソフィアの倒産に直結し、ソフィアが買収した農地を巡る農地法違反や国土利用計画法違反が発覚し、融資した拓銀グループの経営陣に対する責任追及に発展しかねないと考えた。それを回避するために、追加融資の実行を決定した」
 特別背任罪が成立するには、(1)「図利加害の認識」(自己あるいは第三者の利益を図る)、
(2)「任務違背」(当然なすべきだと法的に期待される行為をしなかった)、(3)「財産上の損害」の3要件が必要とされています。
 検察は、山内氏と私には(1)図利加害の認識、(2)任務違背、(3)財産上の損害、のいずれもがあったとして「特別背任罪にあたる」としたのです。

 公判は月2回のペースで開かれ、足かけ4年間で59回にのぼりました。
 証人尋問や被告人質問も十分な時間がとられ、私や山内氏を取り調べた検事の証人尋問なども行われました。
 2000年4月の第18回公判から担当になった小池勝雅裁判長は、丹念に証拠を吟味してくださり、
検察の調書を鵜呑みにするようなことはありませんでした。
 訴訟指揮も真摯な姿勢で臨まれていました。
 法廷で検事が私のことを「河谷」と何度も呼び捨てしたことに対し、「呼び捨てはやめて、『さん』付けで呼びなさい」とたしなめてくれたことをよく覚えています。

(次回へ続く)