「それは十分に承知しています。我々は世界的な経済学者、経営学者を多く抱えています。もちろん、日本人も複数います。彼らと会議を開き、十分な議論を重ねた結果、結論を出します。それが私たちの仕事であり、義務なのですから。しかしやはり、日本の債務の額は軌道を超えています。そして毎年増え続けています。政府も、口では危険性を訴えながら、放置しているようにも見える。さらに少子高齢化問題、企業が海外に出るという産業構造の問題、そして何より──」

 ダラスは言葉を切った。一瞬何かを考え込むように、森嶋から視線をそらせたが、すぐに元に戻した。

「日本人の意識の低下が感じられます。かつてのような、日本の国力の向上を図り、世界をリードしていこうといった覇気が感じられない。こういう状況が続くのであれば、私たちの責任として、現状における正しい評価をしなければなりません」

 それに、と言ってダラスが背筋を伸ばした。

「今回、我々が最も評価に取り入れたのは、東京の脆弱さです。これは日本の首都として、将来の危機に対して容認出来ないことです」

 先日の地震について述べているのだ。その混乱は今も続いている。森嶋も強く反論は出来ない。しかし──。

「私たちが恐れているのは、あなた方の下す結果を投機ファンドが利用しようとしていることです。そして大衆は、彼らの動きに敏感です」

 森嶋はダラスを見据え、強い口調で言った。

「私たちは日本のデータを集め、多くの専門家と議論を続けた結果を客観的に評価して公表します。それが私たちの仕事だからです」

 繰り返すダラスの表情が変わっている。穏やかさは消え、厳しさのみが際だってきている。