第3章

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 インターナショナル・リンクCEOのダラスは、周囲の男たちに目を配りながら続けた。

「私たちは企業の発表する情報を鵜呑みにして評価し、格付けを公表したのです。私たちの情報収集能力、さらに解析能力は未熟で、企業報告の偽造を見破れなかった。プロとして失格です。現在、私たちは国や企業からさらに多くの情報を収集し、綿密に精査して発表することに全力を挙げています」

「日本についてもですか」

「もちろんです。日本に関してもです。そうでなければ、次に来るのはさらに拡大された世界を巻き込むトラブルであると認識したのです」

 ダラスはトラブルという言葉を使った。誰しも財政破綻、世界恐慌という言葉は避けたいのだ。だが、同じことだ。

「しかしながらあなた方日本人、そして日本政府は、自国については正しく理解しているとは思えません」

 森嶋は必死で頭脳を回転させた。理沙や優美子から聞かされた知識を総動員してダラスの話を理解し、次の言葉を探していた。

「あなた方が日本に抱いてる危惧の第一は、日本が巨大な債務を抱える国であること。二番目は1000兆円を超える国債の暴落の心配です。そのショックは世界に広まります。三番目は、政府がそれらに対して有効な対策が打ち出せないこと。常にこの三つを上げています」

 ダラスは頷きながら森嶋の言葉を聞いている。だがこれから森嶋が言おうとしていることは、すでに十分に承知していることなのだ。その上であえて一つの決断を下そうとしている。

「しかしながら、日本にはまだいくばくかの余裕があります。まず、日本には1400兆円の個人資産があることです。まだしばらくは、この金を借りればいい。二番目は1000兆円を超える国債所有者の90パーセントが、日本人であるということです。彼らは利ざやが目的の外国の投機ファンドのように、多少の変動では手放さない。三番目は、日本にはまだ税の上げシロが残されているということです。消費税は世界の先進国中最低です。倍は言うに及ばず、20パーセント、4倍までなら十分に耐えられます。こうしたことから、日本は国債返却につまずくようなことはありません」

 森嶋の言葉が終わると同時に、ダラスは大きく頷いた。