デジタル技術による農業の変革がいよいよ本格化している。政府は2019年度、ITによる農業のスマート化に多額の予算を投じる。だが、補助金のばらまきは農業関係企業からも必ずしも歓迎されていないようだ。ドローンで農産物の生産や流通を変革するナイルワークスの柳下洋社長に農業の産業化に向けた課題を聞いた。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」 千本木啓文)
本来、役人の主人は国民です。農林水産省の仕事は、いかに主人である農家の役に立つかを考えることのはず。なのに、主従が逆転している。国におうかがいを立てる農家も企業も悪いのです。許認可権を持つ役所ににらまれたら困るから、つい下手に出る。
「日本の農業を強くするかどうか」、判断基準はその一点しかないはずなのに、前例や建前を理由に、重要なことが進まない。
――規制改革会議では、農業ドローンの活用を阻害する規制などをなくしました。どう評価しますか。
規制緩和という意味では90点です。ただし、今後は逆に規制するべきことの論点が残っている。25キログラムの農薬を持ち上げる農業ドローンのブレード(回転翼)は、秒速100メートルで回転している。これまで無人ヘリで3人が亡くなっていることを踏まえれば、ブレードがカバーされず、裸のまま回転するドローンを認めるのは安全性に問題があると思います。
――農水省はITを活用した「スマート農業を広めるため2019年度予算の目玉事業として61億円の補助金を注ぎ込みます。これをどう活用しますか。
ナイルワークスはその補助事業は活用しません。補助金を使うと、国からお金を引っ張ってくるのが目的化してしまい、農業を成長産業にするという“本分”が疎かになるからです。