音楽にあわせ、店の前で踊っているおじさん

 キューバの現地の様子は、事前に購入していた『旅の指さし会話帳13キューバ』(情報センター出版局)に著者の滝口西夏さんが書いているコラムが非常に参考になった。まずは滝口さんも書いていることだが、ハバナではどこでも音楽が流れている。道端で楽器を演奏している人、イヤホンをつけず、スマートフォンから音楽を垂れ流し、リズムを取りながら歩いている人。観光地のレストランやバーでは、たいていライブが行われている。

 大ヒットした映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の世界を、そのまま見るかのようだった。

 日本人の感覚として面白いと思ったのが、繁華街のレストラン店内で演奏が始まると、店外に人だかりができて、みんな踊り出すことだ。店外から声援を送っても、写真を撮っても、動画を撮っても誰も文句を言わない。それどころか、ミュージシャンが外の観客の声援に応えてくれたりする。音楽はみんなで共有するものという感覚があるのだろうか。音楽を騒音としたり、突然踊りだす人を迷惑としたりする空気は、筆者がハバナの街を歩いてみた限りでは見受けられなかった。日本とはだいぶ常識が違うのだな、としみじみ思った。

 ところで、そうした人だかりの中には、ラム酒を飲みながら、ひときわご機嫌に踊っているおじさんがいることが多い。そのおじさんの近くに寄って、一緒に踊っていると、だいたいは「店の中で飲もうぜ!」と誘ってくる。ただの調子のいい酔っ払いなのだろうと軽く考えていたが、よくよく考えてみると、店に雇われたサクラなのかもと思えなくもない。

 しかし、「お店に人を勧誘するために、昼間から酔っ払って踊っているおじさん」という職業が成り立つのだとしたら、それはそれで素敵な国だなあと思わせてしまうチャーミングさが、ハバナにはあった。おじさんの誘いに乗ることはなかったので、結局、真実はわからないままだったが。いずれにしても、忙しく人が往来している東京に住み慣れた筆者にとって、現地の人の音楽に対するおおらかな感覚は、とてもうらやましく感じた。

キューバの「たかり」事情

 それと関連することだが、キューバにも物売りやたかりがいないわけではない。しかし、筆者が行った他の観光地と違うのが、断るとすぐに諦めてくれることである。

 一度、バーでクラブイベントのチケットを買ってほしいという熱心な勧誘を受けた。しかし、「夜はディナーの予約をしている」と一言いうと、「OK!」とあっさり諦め、かわりに「せっかく話したんだから、1杯だけおごってくれない?」と提案してきた。日本円にして300円くらい。「まあ、いいか」と思い「OK!」と返すと、モヒートを1杯だけ飲んで、「サンキュー!」とご機嫌な様子で去っていった。

 結果、たかられたわけだが、だいたいこの程度で済むというのが滞在期間中に得た実感。なんとなく憎めない程度に、ちゃっかりしているといった感じだろうか。他の観光地で勧誘してくる人と比べると、さっぱりしている印象があった。

 ただし、オートバイ型の「ココタクシー」には、明確にぼったくられて悔しい思いをした。わずか15分くらいの乗車で2500円くらい取られたのだ。翌日、クラシックカーを運転手付きで半日チャーターして5000円だったことを考えると、どれだけ割高かがわかる。もちろん、良心的なココタクシーの運転手もいるのだろうが。