三陽商会の決算短信Photo by Satoru Okada

創業者の娘婿で社長、会長を歴任した相談役が、代表権のない会長に復帰――。そんな人事を決算短信の最末尾に記載し、現社長からは質問が出るまで説明もなく……。業績不振に陥っているアパレル大手・三陽商会は、今期の黒字化を高らかに宣言しながら、微妙な人事案を、なんとも“控えめに”発表した。(週刊ダイヤモンド編集部 記者 岡田 悟)

 看板ブランドだった英バーバリーを失い、業績不振に陥っているアパレル大手・三陽商会。2月14日に発表した2018年12月期通期決算業績は、21億円の営業赤字、8億円の当期純損失だった。そんな中、創業者の娘婿で相談役の中瀬雅通氏が、代表権のない会長に復帰する人事を、こっそり発表したのだった。

 都内で開いた決算発表記者会見に出席した、岩田功社長や大村靖稔常務執行役員経理財務本部長、慎政宗執行役員経営統括本部副本部長からの自主的な説明は一切なし。

 決算関連の資料と一緒に配られた、社長だけでなく会長も取締役会を招集し議長となれるよう定款を変更するとのリリースについて、本誌記者がその目的を質問したところ、岩田社長が「決算短信の一番後ろのページに、役員の異動ということが記載されていると思いますが」と半ば打ち明けるように説明し始めたのだった。

 もし質問がなければ、説明するつもりはなかったのか。岩田社長は「記者のみなさんが見られるように記載していた」と話す。確かに公表資料に記載はある。記者も当然、目を通しておくべきものだ。

 ただしそれは、岩田社長が話したように決算短信の最末尾のページに小さく書かれているだけである。岩田社長らによる18年12月期の業績や今後の戦略についての説明は、これとは別の決算説明資料に沿って行われた。通常、記者や投資家が決算短信を読むときにまず目を通すのは、業績や貸借対照表、損益計算書などであろうから、三陽商会が積極的に、中瀬氏の会長復帰をアナウンスしようとしていたとは到底言い難い。