事例 3 後継者育成

娘婿の入社で実感
技術職と経営者の違い
【エフ・イー・シー】

 従業員10人ほどの中小企業ながら、技術力を背景に韓国大手メーカーのサムスン電子やLG電子との取引実績を持つ半導体製造装置メーカーのエフ・イー・シー(FEC)。

 06年、埼玉県狭山市に本社を置くその企業の創業者である野﨑敦雄氏は、M&Aを活用した第三者への会社譲渡によって事業承継を成功させた。66歳のときだった。

「マグトラン」は軸同士が接触せずに動力を伝える。ちりに加えて、ガスや騒音の発生も抑えられる

 自身の年齢も考えて、M&Aを決断したのはその約2年前。M&A仲介業のストライクに相談すると、譲渡先探しにお墨付きをもらう。その言葉通り、すぐに“求婚”が相次いだ。FECには、独自開発した歯のない歯車「マグトラン」(写真)という強力な“嫁入り道具”があったのだ。

 これは、磁石の力を利用して、軸同士が接触せずに動力を伝えられるというもの。歯車同士がかみ合って動くときに発生する、細かなちりを防げるという優れ物だ。

 FECが身を置く半導体業界は、「ナノメートル(10億分の1メートル)」が標準単位の世界。インフルエンザウイルスの大きさが100ナノメートル前後といえば、想像がつくだろうか。そんな超ミクロの世界では、歯車同士の接触で発生するちりもばかにはできないため、マグトランは画期的な発明品だったのだ。

 その製品力は買い手にとって魅力的に映った。ただ、「FECの技術力を今後さらに発展できる企業」という、野﨑氏の第1希望の観点からお眼鏡にかなう譲渡先はしばらく現れなかった。

 そんな野﨑氏の心が動いたのは、真空技術を扱い、FECの同業といえる昭和真空の経営陣とストライクが引き合わせたときだ。「私の希望とまったく同じ展望を語ってくれた」(野﨑氏)という。東京証券取引所の新興企業向け株式市場、ジャスダックに上場している昭和真空の下であれば、その展望も見通しやすかった。

 最高の事業承継を実現できたかに思える野﨑氏だが、一つ心残りがあるという。それは、後継者育成だ。「振り返ると、経営を退く10年ほど前から準備しておくべきだったが、事業環境のアップダウンが毎年あって、目の前の経営をこなすのが精いっぱいというのが現実だった」と明かす。

 実は、たまたまエンジニアだった娘婿に、後継者含みで入社してもらったりもしたという。「後継者は技術畑の人間にしたいと当時は思っていた」(野﨑氏)。

 しかし、娘婿はその後他社に引き抜かれるほど優秀なエンジニアではあったが、経営人材ではないと、野﨑氏は思い至る。そして、経営は経営のプロが担うべきだと考えを改めたという。

 後継者育成は時間がかかる課題だ。野﨑氏の教訓も踏まえ、早く着手するに越したことはない。