こんなとき、以前の樋口ならば、激しい言葉で部下を叱り飛ばした上で、「さっさとこうしろ」と自ら解決策を指示していただろうと本人は語る。だが、このときはそうしなかった。差し迫った時間の中、そうしたい気持ちをぐっと抑えて、直属の部下と開発チームに、自分たちで解決策を見つけるよう促したのだ。

「以前も同様のトラブルが起き、そのときはとりあえずの対処、つまり対症療法のようなもので済ませてしまった。安易に流れたのは、部下も私も同じでした。しかし、それが原因で再び同じトラブルが起きてしまったんです。今度ばかりは安易な対処に流されず、しっかりと根本原因を見つけなければ仕事自体もアウトだし、部下の成長も望めない。時間との闘いでしたが、私はあえて部下たちへ指示を出すのをやめ、自主性、主体性に委ねようとしました。内心ではむちゃくちゃイライラしながらでしたが(笑)」

 樋口がこうした態度を取った背景には何があったのか。

上司に相談することで“他責”にし
部下に指示することで“喜び”を奪っていた

 このトラブル発生の直前、樋口はたまたま会社から組織革新研究会(以下、組革研)へ派遣されていた。その当時、樋口はリーダーとして大きな悩みを抱えていたという。

「職場中に、部下たちの『どうしましょうか』があふれていました。何か問題が生じたり、わからないことがあったりするたびに、上司である私に『どうしましょうか』と尋ねてくる。そのたびにイライラしながらも、私は『じゃあ、こうしろ』といちいち教えたり、指示したり、世話を焼いていたんです」と振り返り、さらにこう続けた。

「それでは部下が育たないというのは、うすうす分かっていたんですが、仕事にはリミットというものがあるし、こちらの都合にかかわらず、次から次へと押し寄せてくるのが仕事です。とにかく、それらを片付けていかなければならないわけで、そうなると部下のためにならないと思いつつも、ついつい『こうしろ』と指示してしまう自分がいたんです。そうしないと仕事が終わらないという焦り、恐怖がありました」