「論理に裏打ちされた戦略があってこそ、成功にたどりつける」――これがかつてのビジネスの常識だった。しかし「他者モードの戦略」は、いたるところで機能不全を起こしつつある。その背後で、いま、マーケットに強烈なインパクトを与えているのは、「根拠のない妄想・直感」を見事に手なずけた人たちだ。
そんななか、最新刊『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』を著した佐宗邦威氏は、いま何を考えているのか? P&G、ソニーで活躍し、米国デザインスクールで学んだ最注目の「戦略デザイナー」が語る「感性ベースの思考法」の決定版!!

「感情アウトプット」を練習する
――モーニング・ジャーナリング

「自分が何を考えているのかわからない」「何に興味があるのかがわかならない」――上司やクライアント、マーケットの期待に応える形で仕事を続けていると、こういう状態に人は陥っていくことになる。「他人モード」の時間があまりにも長すぎて、本来の「自分モード」を見失ってしまうわけだ。

こういうときは「紙のノートに手書きをする」のがオススメだ。

その際、まず意識するべきなのが、「他人モードのツール」と「自分モードのツール」は、はっきり分けるということだ。

たとえば、仕事でEvernoteを使っている人は、Evernoteに個人的な日記を書くと決めても、なかなかうまくいかないだろう。同様に、紙の手帳で仕事のスケジュールを管理している人は、その手帳に日記をつけようとしても、おそらく続かないはずだ。

「他人モード」の侵犯を遠ざけたければ、ツールそのものを切り分けるのがいい。だとすれば、やはり新品のノートを買ってしまうのが、いちばんの近道なのである。

ノートを買ったらまず試してほしいのが、ジャーナリングという方法である。ポイントをいくつかあげておこう。

 □ 毎日決まった時間に書く。毎朝の仕事前がおすすめ(これをモーニング・ジャーナリングという)だが、なるべく続けやすい時間帯ならいつでもかまわない
 □ 人に見せないことが大前提。他人の目があるブログやSNSではなく、持ち運びが簡単なコンパクトサイズのノートがいい
 □ 毎日、決まったページ数を書くようにする。「毎日2ページを埋める」と決めたら、なるべくそれを守る
 □ お気に入りのペンで手書きする。手書きには集中力を高めたり、心を整えたりする効果も期待できる。ふだんキーボードばかりに向かっている人にはとくにおすすめ(右脳を活用するマインドフルな行為として「写経」が流行している)
 □ 最低でも1ヵ月続ける。これくらい継続すると、かなりしっかりと効果を実感できる

「自分モードを引き出す」という目的に照らした場合、ジャーナリングの記述内容は、「過去に起きたこと」よりは「そのときに感じていること」が望ましい。客観的な事実ではなく、あくまでも主観的な感覚・感情にフォーカスするわけだ。

友人や家族に見せるわけではないし、ネットで公開することもないので、どんなに稚拙な文章でもかまわないし、どれだけキザなこと・恥ずかしいことを書いてもいい。

いちばんとっつきやすいのは、「感情ジャーナリング」だ。

自分がいやだと思ったこと、うれしかったこと、どうにも気になっていることなどを、ありのままに書いていく。本当はつらかったのに我慢していたこと、じつは後悔していること、心の奥底に溜めている他人への悪口や嫉妬心などなど、マイナス感情が出てきても抑え込む必要はない。

ただし、ジャーナルの最後は必ずポジティブな感情で締めくくるようにすると、日々の充足感が高まる。

「他人モード」に染まりきっている人は、これだけの作業にすら困難を覚えるはずだ。自らの感情にアクセスするための「筋肉」が鈍りきっているからである。まずは「思ったことをありのままに吐き出すリハビリ」だと思って、やってみてほしい。

僕はこれまでかなりの人にこの方法をおすすめしてきたが、たいていの人は、1週間も継続すると、書き終えたあとの爽快感を実感できるようだ。さらに1ヵ月経ったくらいから、周囲の目を気にして身につけている「鎧」が取れてきて、「むき出しの自分」が見えてくる。

とある僕の知人も、「自分の周りにくっついていた何かが削り落とされて、ツルツルに磨かれてきたような感じ」という言葉を口にしていた。

最後に、ノートは「ハードカバー」「ポケットサイズ」がおすすめだ。「他人モード」に邪魔されない特別感がつくれるし、どこでもパッと開けられる。

なお、僕が個人的に気に入っているのが、「測量野帳[SKETCH BOOK]」(KOKUYO)と「モレスキンノート[POCKET・無地・ハードカバー]」(モレスキン)である。

佐宗邦威(さそう・くにたけ)

株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー。大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを駆動力にした創造の方法論にも詳しい。著書に『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)がある。