要因1
小売業者はドットコム・バブル期にeコマースの誇大評価に乗じて大やけどを負った。

 多くの小売業者は、時価総額を最大化するため、別組織でオンライン小売専門の関連会社を設立したが、これらの関連会社は本社と異なる顧客層に的を絞り、本社と連携することを嫌がったため、本社との間に深刻な摩擦と嫉妬を生み出すことになった。

 「ドットコムが世界を制する」との予測があまりにも楽観的すぎたことが判明した後、高値づかみした買収戦略の失敗が表面化し、リアル店舗の本社サイドは「それ見たことか」と祝杯を挙げたものだ。

 それから10年を経た現在も、小売業での店舗事業とデジタル事業の真のコラボレーションを目にすることは滅多にない。

要因2
デジタル・リテイリングは既存店舗の経済原則や評価システム、インセンティブ制度を脅かす。

 伝統的小売業は、同一店舗売上高や労働時間単位の店頭売上高の増減、またそうした評価基準を軸とする報酬制度によって、一喜一憂している。

 オンライン売上高が総売上高の2~3%の時代はそれで問題はなかった。しかし、その数字が15~20%に達すれば、そのようなシステム全体が崩壊してしまう。

要因3
小売業者は誤った財務評価基準、すなわち「利幅」を重視しすぎる傾向がある。

 もし、ある変化によって利幅が狭まったとすれば、それは望ましくない変化である。しかし、ベイン・アンド・カンパニーの調査によれば、小売業者の株価は、利幅ではなく、ROE(株主資本利益率)と成長率で変動する。

 アマゾンのこの5年間の営業利益率(利幅)はわずか4%で、ディスカウント・ストアおよび百貨店の平均6%を大きく下回っている。しかし、在庫回転期間がより短く、リアル店舗という資産を持たないため、同社のROEは従来型小売業者の平均の2倍以上となっている。

 その結果、アマゾンの時価総額(1000億ドル)は、ターゲット、ベスト・バイ、ステイプルズ、ノードストローム、シアーズ、JCペニー・カンパニー、メイシーズ、コールズの全社の時価総額の合計とほぼ等しい。

要因4
従来型小売業者は飛躍的イノベーションがもたらす素晴らしい経験を味わったことがない。

 彼らが最も居心地よく感じるのは、漸進的に改善していくことであり、広く知られた格言"Retail is detail"(小売りでは細かなことが物を言う)に従うことである。

 これまで、鳴り物入りで店舗再開発計画を実施したのに、結局はひっそりと閉店していくといった例が多すぎた。もっと目新しいやり方を提案したとしても、小売業者は「それほど優れたアイデアなら、なぜだれも実行していないのですか」と質問するだろう。

 小売業者は、自分たちの顧客はいつまでもそこにいると考えがちである。しかし、顧客がオムニチャネル・ショッピングの快適さを実感するにつれ、以前より店舗でのショッピング体験に不満を感じることが多くなる。店員はなかなか見つからず、やっと見つけた店員は商品についてほとんど何も知らない。品切れも珍しくなく、レジの前には長蛇の列が絶えない。返品にも手間がかかる。

 はっきり言って、オムニチャネルの世界は伝統的小売業者にとって重大な危機を意味する。顧客は彼らの目の前を素通りしつつある。オンラインの業者が利益を獲得しているのだ。既存の小売業者が遅れずについていくためには、オムニチャネル戦略を推し進め、変化を加速しなければならない。