長谷川監督を含めて、FC東京としては「急がば回れ」を久保に説いていた。ただ、カンテラと呼ばれるスペインの名門、FCバルセロナの下部組織の入団テストに10歳で合格。約3年7ヵ月に渡って心技体を磨き上げてきた久保も、自分自身に対して絶対的な自信を抱いていたのだろう。

 ゆえに慰留を振り切って飛び出し、FC東京としても「可愛い子には旅をさせよ」の心境でマリノスへ送り出した。この時から、昨年末までと定められていた期限付き移籍の期間は延長しない、という方針があった。久保が持つ非凡な能力に期待を寄せていたと、大金社長は振り返る。

「選手には(期限付き移籍という)旅をしながらしっかり成長するタイプと、何だか旅先の居心地がいいなと感じてしまうタイプと2通りあると思うんですね。建英の場合は自分のことを客観的に、自分の視点を持って見られているし、目標となるゴールをしっかり見定めてサッカーに取り組める。そういう点もあったので、どこへ行っても間違いなく成長できる、と考えていました」

 トップレベルの試合に出られない理由を、監督をはじめとする外側ではなく、自分自身の内側に見つけたからだろう。進むべき道がはっきりと見えていた久保は、期限付き移籍を終えて復帰するために設けられた交渉の席で、大金社長を驚かせる言葉を発している。

「建英は『僕は間違いなくやれます』と言ったんですよ。自信満々だったというか、ちょっと言い過ぎなところもあるかなと思ったくらいですけど、とにかく『絶対にチームのためにやれます』と。一番変わったのはメンタルですよね。技術力といったところは以前から高かったところへ、メンタルの部分でひと回り大きくなって帰ってきたと思いました」

体感トレーニングの成果で
体を張ってボールを奪う場面も

 心の変化だけではない。チーム活動以外でもプロトレーナーの木場克己氏に師事し、今現在に至るまで地道に積み重ねてきた体幹トレーニングの成果。栄養士の助言を受けながら、食生活に施してきたきめ細かな配慮のすべてが相乗効果を成し、長谷川監督の評価を鮮やかに覆させた。

「びっくりするくらい変わりました。キャンプ当初から意欲も違いましたし、練習試合を重ねるごとに成長する姿を目の当たりにして、開幕戦から(先発で)行けるんじゃないかと。若い選手の1年間の成長は本当にすごいと、あらためて驚いています」