“一発屋芸人”として世に知られていたお笑いコンビ・髭男爵の山田ルイ53世が、文筆家として躍進している。「不本意でいいじゃないか、人生諦めが肝心だ」…芸人として“負け”た男爵の「自分を諦めてあげる生き方」について話を聞いた。(清談社 藤野ゆり)
「日常」をキラキラさせる
必要はあるのか?
「焦り、不安、絶望の日々。そしてある日、『自分』を見限り、諦める。人生お先真っ暗。そんな負けを重ねた人間だからこそ選べる道ーーそれがコスプレキャラ芸人だった」
『一発屋芸人の不本意な日常』(朝日新聞新書)の一節である。著者・山田ルイ53世(以下、男爵)のことは当然ご存じの方も多いだろう。貴族服をまとい、高らかにワイングラスを鳴らす「ルネッサンス」のネタで、一躍売れっ子芸人となった髭男爵である。
男爵の巧みな文章は評判で、去年発表した『一発屋芸人列伝』(新潮社)は雑誌ジャーナリズム賞を受賞したほど。今年1月に上梓された著書『一発屋芸人の不本意な日常』でも、“一発屋芸人”である男爵の日常がシニカルな目線とウィットに富んだ文章でつづられており、話題となっている。
「拙著のタイトルは『一発屋芸人の不本意な日常』となっていますが、芸人でもビジネスパーソンでも、40代や50代を迎えたら多かれ少なかれ、大抵、不本意な毎日でしょう(笑)。僕の本を読んで、不本意なのは自分だけじゃないんだって安心してもらえるのが一番本意……嬉しいですね」(男爵)
そもそも日常なんて、不本意なもの。そう語る男爵の人生哲学は、“負け”を知っているからこそ納得感のあるものが多い。