「今日のことを謝りに来たんだ。役所を休ませて」

「今度来るときには電話しろ。俺が部屋にいなかったら困るのはお前だ」

「お前が外泊ってことはないだろ。俺のことは気にしないでくれ。しかし、これからは電話するよ。つまらないことで憎まれたくないからな」

 ロバートは理沙の乗ったタクシーが走り去った方に目をやった。

「これから中国か」

「羽田でジェット機が待っている。中国の富豪のプライベートジェットだ」

 帝都ホテルで見た太った東洋人が脳裏をかすめた。

「ハドソン国務長官も一緒か」

「長官とは北京で合流する」

 ロバートはこれ以上聞くなと言う顔で空を見上げた。

 森嶋もそれ以上聞くのがためらわれた。明らかに自分がいる世界とは別のものだ。

 ロバートにならって空を見た。町の明かりの先の薄い夜空の奥に、星の瞬きが見える。たしかに彼はしゃべりすぎている。これが公になれば必ず問題になるだろう。

 森嶋はロバートが乗ったセダンが走り去るのを見送ってから、マンションに戻っていった。