ロシアとグルジアの衝突から約2カ月。ロシアが和平合意を遵守したことで、グルジア情勢はひとまず小康状態を保っているが、危機が去ったとは言い難い。しかも、火の手はウクライナなど複数の旧ソ連構成国で上がりつつある。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)
コロンビア大学名誉教授 ロバート・レグヴォルド |
グルジア問題は、今後旧ソ連各地に飛び火する可能性を秘めている。すでにその兆候が見られるのは、ウクライナだ。
ウクライナの政情は今、非常に不安定な状態にある。4年前の「オレンジ革命」で親ロシア派与党から政権を勝ち取った立役者の二人、すなわちロシアに対して穏健路線を取るティモシェンコ首相とグルジアのサーカシビリ大統領を擁護するユーシェンコ大統領とのあいだで確執が大きくなっているからだ。すでに連立政権は解消されている。この分裂は社会全体に広がっていくことが予想される。
ウクライナ内のクリミア半島には、ロシアの黒海艦隊基地があるが、グルジア問題を機にユーシェンコ大統領は2017年までと設定されている貸借期間や使用料の変更をロシアに迫る可能性がある。
もともとクリミア半島地域にはロシア人、ウクライナ人、クリミア人のあいだに緊張関係があり、ロシアがこの機につけ込もうとすれば、ウクライナの政情不安をさらにあおるのはたやすいものだ。
同じくロシアの出方一つで、政情不安に火がつきかねないのが、“独裁主義”政権に牛耳られているベラルーシだ。国内政策が頓挫したり、経済不安が起こった場合には、ロシアが介入してくることが考えられる。むろんベラルーシに内政干渉する場合は政情を立て直すためであって、ウクライナのように侵略を意図したものとはならないだろう。だが、ロシアの動きに対しては、ポーランドやリトアニアが過敏に反応し、国際社会に極度の緊張が走る可能性はある。
楽観論者からすれば、ロシア側にもグルジア侵略において計算違いがあったことから、早まった行動は取らないと考えたいところだろう。確かに、中国や中央アジア諸国などの上海協力機構メンバーからの支持が得られなかったことはロシア側に大きな衝撃を与えたと思う。彼らは積極的な批判もしなかったが、支持もしていない。