岩瀬達哉 著
(新潮社/2011年)
「経営の神様」こと松下幸之助(1894~1989年)。数限りなくある評伝の中で、異彩を放つ。“正史”には書かれなかった人間性を描く。
彼の判断基準は「儲かるか」の一点だった。むき出しの利益への執念。妾宅との二重生活。幸之助と袂を分かち、三洋電機製作所(後のサンヨー)を創業した井植歳男(1902~69年)との確執。晩年期、過去の成功体験にとらわれ、ひたすら血族経営に執着する姿は「老醜」といってよい。実に粘っこい。
本書は、凡百のスキャンダル集ではない。客観的で公平な筆致が、逆説的に幸之助の本当の凄みを明らかにする。人間故の限界を全部差し引いてなお日本最強の経営者だ。真の姿を知ることで、かえって幸之助への尊敬が募る。
(一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授 楠木 建)