また、森川が丁寧に説明して、「大丈夫?理解できた?」と確認すると、山田は「あ、はい」と言うが、実際にやらせてみると全くできなかった。すると森川は「分からない時は、『分からない』って言ってくださいね」と優しく語りかけるが、「あ、はい」と分かっているのか分かっていないのか、といったあいまいな返事だった。

 また、ある時は川口課長が、

「今日から新人は森川に同行して取引先を回ってみようか」

 と朝礼で言うと、山田は即座に

「僕はいいです」

 と拒絶した。

 驚いた課長が尋ねる。

「どうした?具合でも悪いのか?」
「同行したい気分じゃないんで」

 彼は表情を変えずに淡々と答えた。

 課長も森川も、お互いに「同行したい気分じゃない…?」と目を合わせて驚いた。森川は叱りつけたい気持ちだったが、彼女の表情を見た課長はなだめつつ、彼に優しく語りかけた。

「そんな気分の時もあるか。でもな、これも仕事の1つだから今日は同行してみようか」

 山田は小さくため息をつくと、不貞腐れた様子で仕方なくついて行った。

 その後も、山田のトンデモ言動は頭痛のタネだ。森川が大事な取引先との夕方からの打ち合わせに同行するように言うと、山田は「その日は自分の誕生日なんで早退予定です」と拒絶する。

 またある日、山田が昼の休憩時間を大幅に過ぎて戻ってきたので、森川が注意すると、

「2時間食べ放題の店で、1時間では食事が終わらなかったんで」

 と全く悪びれない。

 森川はそんな彼の言動にイライラしたり頭を抱えたりとストレスを感じるようになっていた。