銀行は財務諸表のどこを見ているの?【C/S(キャッシュフロー計算書)編】
文系だから読めないが通用する時代ではなく、「ビジネススキル」としての「数字を読む能力」は求められています。ましてや、経営者は財務戦略を敷くにあたり、「数字が読めない」では、通用しません。新刊『財務諸表は三角でわかる 数字の読めない社長の定番質問に答えた財務の基本と実践』から財務戦略の基本をわかりやすく紹介。先代から事業を引き継いだ2代目社長の質問に答えていく形ですすめます。
(下町工場株式会社2代目社長からの質問)
「やはり銀行と付き合っていかないと潰れやすい会社になってしまうんですね。そうなると銀行の考え方を理解しないといけないと思うんですが、銀行はうちの財務諸表をどのように見てるんですか?」
経営者が、銀行の財務諸表の見方を理解しているかどうかは、事業拡大のスピードを大きく左右するため非常に重要です。会計事務所任せにせず、以下の点をチェックしましょう。
C/S(キャッシュフロー計算書)で見られるポイント
中小企業はC/Sを作っていない場合がほとんどですが、B/Sの増減で資金分析をしています。B/Sの2期比較のやり方は本連載では割愛しますが、B/Sを2 期並べて減価償却費を調整すると、C/Sが作れてしまいます。いくら会計処理を操作しても、現預金だけは嘘をつかないことを銀行は知っていますから、C/Sは重要な分析資料になります。
下町工場株式会社のB/Sを2期並べてみると、現預金が200万円減っています。この原因がC/Sの営業CF・投資CF・財務CFのどの部分にあるか、を分析しています。
財務CFは借入金の増加額を見ればわかります。前期より借入が600万円増えているので、財務CFは+600万円。
投資CFは機械を買った600万円分がマイナスになるので、△ 600万円になるはずです(第5回記事参照)。B/Sの固定資産の増減を見ると、建物増減△ 100万円+機械増減400万円=300万円しか増加していないように見えますが、固定資産は減価償却している分、B/Sから減っています。
そこでP/Lから減価償却費300万円を見つけてきて、固定資産の増加額300万円に足すと300万円+ 300万円=600万円となり、投資した金額がわかります。
投資CFと財務CFがトントンなのに現預金が200万円減っているので、残りの営業CFが△200万円ということになりますね。
銀行は営業CFを注意深く見ますので、下町工場株式会社も気をつけなければいけません。
P/Lが毎年プラスでも、営業CFが2期連続赤字だと、粉飾決算を疑われる可能性があるため、どんな理由でそうなっているかをきちんと説明する必要があります。
大久保圭太(おおくぼ・けいた)
Colorz国際税理士法人代表社員。税理士。
早稲田大学卒業後、会計事務所を経て旧中央青山PwCコンサルティング(現みらいコンサルティング)に入社。中堅中小企業から上場企業まで幅広い企業に対する財務アドバイザリー・企業再生業務・M&A業務に従事。再生業務において、過去節税のために生命保険に加入した経営者が、業績悪化とともに借入等が返済できなくなり、保険金欲しさに自殺するのを間近にみて、自分の無力さに悩む。税理士の適切でないアドバイスにより会社の財務が毀損し、苦しんでいる経営者が多数いる現実を変えるには、税理士業界の意識を変える必要があることを痛感。2011年に独立し、再生案件にならないような堅実な財務コンサルティングを中心に、代表として年間数十社に及ぶプロジェクトを統括している。著書に、
『借りたら返すな! いちばん得する! 儲かる会社に変わるお金の借り方・残し方』(ダイヤモンド社)がある。
■著者からのメッセージ
中小企業の経営者は、営業力や技術力、新しいビジネスモデルを創造する発想力など、みなさん、さまざまな能力を活かして起業されたり、会社を引き継がれたりしています。ただ、残念ながら、そういった能力がある中小企業の経営
者でも、会計の知識はほとんどありません。ましてや、簿記を勉強している人はごくわずかでしょう。
しかし、企業の経営活動はすべて複式簿記で会計処理され、財務諸表(いわゆる決算書)、主に貸借対照表(B/S)・損益計算書(P/L)・キャッシュフロー計算書(C/S)の3種類で表現されます。
財務諸表がわからないと、自社の本当の実力を把握したり、適切な戦略を立てたりすることができないのです。
そんな状況のなか、数字に強くない経営者のために上梓したのが『財務諸表は三角でわかる 数字の読めない社長の定番質問に答えた財務の基本と実践』です。前著『借りたら返すな! いちばん得する! 儲かる会社に変わるお金の借り方・残し方』は、会社をつぶさないために、そして儲かるために、お金を借りることの必要性を説きましたが、本書は財務諸表を少しでも理解できるように、会計がわかる本を買って読んでみるものの理解できたようなできなかったような……そんなモヤモヤを取り払った内容となっています。
会計の解説書は、上場企業などの財務諸表をサンプルに解説しているケースがほとんどですが、上場企業と中小企業の財務諸表は、規模はもちろん、会計基準も違うので参考にならないケースが多いでしょう。また、財務戦略に関しても上場企業は必要なお金を市場から資本として調達できますが、中小企業で資金を投資家から集められるところは非常に少ないですし、集められても上場企業の新株発行に比べると桁が違いすぎます。
上場企業向けのさまざまな財務分析の指標も、中小企業の財務分析には役に立たないので必要ありません。そもそも、中小企業の経営者にとって必要なのは、財務諸表を理解することよりも自社の経営にそれをどう活かすか、自社の財務戦略をどのように立てるのかを考えるために財務諸表を読めるようにすることなのです。
企業の経営にとって、ビジネスモデルと財務戦略は両輪です。財務戦略のベースは、みなさんの会社の財務諸表です。ぜひ財務諸表を経営に活かし、ビジネスモデルを支える財務戦略を立案し、強い中小企業になっていただきたいです。
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経営に危機感を感じている経営者のベーシックな質問からみえてきた、「これだけ知っていれば何とかなるだろう」を基準にした財務の基本です。
本作のサブタイトルにあるように、数字の読めない社長の定番質問に答えた内容です。財務諸表は、調達、投資、回収の三角で考えていけば、わかりやすくなります。
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儲ける会社ほどお金を返さず、ジリ貧な会社ほど律儀に返す。
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どうすれば会社を潰さずに、儲かる会社に変えることができるのか。答えは「会社にお金があればいい」、それだけです。お金がないから会社は潰れていき、十分な投資ができず、儲けることができないのです。
過去の「会計」ではなく、未来の「財務」を考えましょう。1日でも「長く」「多く」手元に資金を残す方法を考えていけばいいのです。 会社を守るのは「利益」ではなく、「現預金」です。とにかく手元の現預金を増やすには、どんどん借入をして現預金を集めるべきです。そのための方法を本書でわかりやすく紹介します。
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