30代を大きく左右する結婚という一大イベント。後悔のない結婚をするために必要な決断とは何か?『35歳の教科書』の著者・藤原和博さんと、新刊『30代を後悔しない50のリスト』の著者・大塚寿さんが語る、結婚にまつわる人生の決断のとき。
自由な決断は
制約があってこそ成立する
大塚:私の新刊『30代を後悔しない50のリスト』は、多くの諸先輩たちの後悔をベースに書いているのですが、その中で、「結婚すればよかった」という後悔と「結婚しなければよかった」という二つの後悔を紹介しています。どちらにしても、先人たちの後悔があるんですね。
まず前者の「結婚すればよかった」から考えてみたいのですが、これは結婚のタイミングを逃して、あとで後悔しているという人です。最近は結婚できないという人も増えていますが、なぜ、こういう後悔が生まれるんだと思いますか?
藤原:結婚相手を選ぶというのは、たとえるなら住宅を買うときと似た側面があると思うんですよ。というのは、住宅を買うときって、憧れのあの場所に住みたいとか、自分が小学生のときに親しんだ緑の多い郊外に住みたいとか、そういう夢を膨らませますよね。それで、家族が何人だから間取りはこれくらいでとか、眺望がいいタワーマンションがいいとか、地震が怖いから低層がいいとか。そういうふうに、住宅というのは、夢から入って選ぶでしょ。
大塚:なるほど、結婚は住宅の購入と一緒ですか。私も住宅を買うときには夢から入りましたが、結婚のときはどうだったかな……。
藤原:住宅については、その選択の裏側に、かならず「予算」という「限界」があります。たとえば、実際にそのマンションに申し込んだけど、審査でローンが下りなかったとか。4000万円の住宅を買うのに、頭金が400万円しかないというときに、借り入れの3600万円が下りるかどうかとか。
なんで僕がこんな話をするかというと、住宅の購入は、実は結婚と似ていると思うからなんです。要するに、最初は夢から入るでしょう? でも実際に理想の人と出会える確率はかなり限られている。住宅もそうなんですけれど、日本に建っている4000万戸とか5000万戸とかの住宅、すべてを検索して家探しをするわけではありませんよね。
大塚:たしかに実際の出会いは、住宅も結婚も、すごく狭い範囲内のことに限られていますね。私、最初のマンションは杭打ちの始まった建設現場の横を通って、そこにマンションが建つと知って、価格も決まらないうちから予約して買ったくらいですし、女性も探したのではなく、知人の紹介でした。そういう意味ではものすごく狭い範囲内でした。
藤原:多くの人はいろいろな選択肢のなかで夢を追っていくんだけれども、住宅というのは、最後の最後で、「予算」という限りがあるから決着がつくんですよ。決断がしやすいというか、懐具合によって、決断せざるを得ない。つまり、どうしてもどこか妥協して手を打たざるを得ないんですよ。
ところが、結婚と住宅購入が似ていながらも決定的に違うのは、結婚には「予算の制限」がないでしょ。
大塚:なるほど。確かに結婚には、妥協せざるを得ない状況というのはないですね。ほかにも可能性があるかもといった具合に、また別の夢を追ってしまいます。
藤原:住宅には、背後に、どうしても経済的にここで落ち着かなければならないとか、これは諦めなければならないという限りがある。たとえば、どれだけ青山ですごい眺望のマンションを買いたいと思っても、僕の予算がもし4000万円しかなかったら、まずその時点で見にも行けないってことになるでしょう(笑)。
大塚:そうですね。1LDKも買えないぞ、みたいな(笑)。
藤原:そういう背後にある経済が影響して、どうしてもそこに決めざるを得ないという限界が出てくるんですね。どんなに広いテラスが欲しいとか、戸建てでデッキがあって家族でバーベキューもしたいといっても、現実的に諦めざるを得ない。最後に何を選ぶのかというのが、予算という限界があることで、はっきりしてくるんですね。また、もう小学生の子どもがいるから、絶対にこの学区のここしかない、だったら広さを我慢しようといった判断にもなってくる。
それが結婚という場合には、箍(たが)が外れてしまって、背後にある経済条件という限界が、まったく無視されてしまうので、選びようがなくなってくるんですね。
大塚:なるほど。夢はいくらでも見られますし、そこに浸っているのがどれだけ快感かはよくわかります。
藤原:人間って、制約がないと、実は本当の意味で自由になれないんですよ。あるいは、自分の気持ちだけでは自由な判断ができない。