東芝の“負の遺産”であるLNG事業について、買収することに合意していた中国企業が破談を切り出した。理由の一つとして「米中貿易戦争の影響」を匂わせたが、それは“口実”。実際は別の損得勘定が働いた。
東芝が中国の民間ガス大手ENNグループに譲渡予定だった、米国テキサス州の液化天然ガス(LNG)プロジェクト「フリーポート」について、ENNはこのほど譲渡契約の解除を要求した。東芝は2018年11月、ENNとフリーポートの譲渡契約を結び、最大1兆円の損失に膨らむ可能性があったところを930億円の“出血”で抑えられるはずだった。
ENNの解除要求により、東芝は19年3月期決算の損失額の取り扱いを再検討せざるを得なくなりそうだ。19年度からスタートする中期経営計画「東芝Nextプラン」で再建を目指すが、切り離せなくなった“負の遺産”はその足かせになりかねない。
当初から市場関係者は東芝とENNとの譲渡契約を懸念していた。というのも、東芝がフリーポートの譲渡契約を発表した昨年11月は、米中貿易戦争の真っ只中。東芝がフリーポート売却に当たってENNに米国の子会社の株式を譲渡するには、対米外国投資委員会(CFIUS)から承認が必要だ。アナリスト向けの説明会では、承認が得られるのか疑問視する声が上がっていた。
それに対し、東芝側は「ENNは過去にCFIUSを通っているので、成立の蓋然性は高い」と楽観視していた。
結局、予定していた今年3月末までにCFIUSの承認が得られなかった。ENNは東芝に契約解除を求めた理由の一つに、CFIUSの承認がなかったことを挙げている。その点で、米中貿易摩擦は影響しているだろう。
しかし、業界関係者の中には「ENNが米中貿易戦争を“利用”した」との見方を示す者もいて、「東芝より、ENNが一枚も二枚も交渉が上手だった」と言う。これはどういうことなのか。