記者、ラストベルトに住む トランプ王国、冷めぬ熱狂
『記者、ラストベルトに住む トランプ王国、冷めぬ熱狂』
金成隆一 著
(朝日新聞出版/1400円)

 日本の新聞社で、米ニューヨーク駐在を務める記者の担当領域は、本来なら国際連合本部などの取材である。

 しかし、大統領選挙中にレンタカーを借り、「ラストベルト」(米中西部から北東部にかけての主要産業が衰退した地域)に足を踏み入れると、そこにはトランプ氏を熱狂的に支持する世界が広がっていた。前作『ルポ トランプ王国──もう一つのアメリカを行く』(岩波新書)は、そこから誕生した。

 今回の新作は、トランプ政権が誕生した後の支持者たちの日常を追跡取材したものだ。自分たちが選んだユニークな大統領に対して、失望もあるけれども「思ったよりもよい」との評価もある。だから、岩盤のような約4割の支持率は、私たちが思う以上に底堅い。いくら「リベラルなメディア」が批判しても、熱狂は冷めないだろう。

 著者は、労働者の街であるオハイオ州ウォーレン郡に月額450ドルでアパートを借りる。元民主党員で、トランプ支持に転じた取材先のジョーからは「気は確かか?」と止められた。薬物依存の犠牲者が相次ぐ物騒な地域であり、隣人のカップルはアルコール依存症だった。ただし、定点観測するには、格好のポジションであった。

 一緒にビールを飲み、時には煙草も吸い、市井の人たちの声を拾い上げていく著者の目線は低い。白人至上主義者の集会にも飛び込んでいくが、妙な使命感や思い込みは薄い。いい意味で、朝日新聞の記者を感じさせないノンフィクションである。掲載された写真は、貴重なものばかり。繁栄から取り残された米国の今を伝える。

 かつて、フランス人貴族のアレクシ・ド・トクヴィルが観察した19世紀の米国では、上流階級も普通の人たちと同じように振る舞っていたという。だからこそ、『アメリカのデモクラシー』は、うまく機能したのであろう。

 21世紀の米国は、その時代とは異なっている。東海岸や西海岸の大都市では「地球温暖化防止」が最優先課題だという人たちがいて、大陸の中央には生活のために石炭産業の復活を祈る人たちが住む。

 両者は、相容れない価値観を有する。後者を“発見”したトランプ大統領の下で、社会の亀裂はどんどん深まっているように見える。

 ところが、気が付けば私たちは、西と東の大都会だけに通う人たちのことを「米国通」と呼んでいる。人口5万人以下の街に国民全体の6割が住むという国であるにもかかわらず。だからこそ、労働者の街の定点観測には価値がある。

 著者の金成隆一氏は、このたびボーン・上田賞を受賞されたとのこと。お祝いを申し上げたい。

(選・評/双日総合研究所チーフエコノミスト 吉崎達彦)