米国でトランプ政権が誕生してから、新大統領の一挙手一投足に各国政府も市場もメディアも振り回されている。それは新政権が保護主義に走るのか、反イスラム主義なのかといった目先の課題に目を奪われ過ぎているからでもある、トランプ政権の誕生を歴史的な視点で捉えたのが、アメリカ外交・国際政治経済が専門の進藤榮一筑波大学名誉教授が著わした『アメリカ帝国の終焉』(講談社現代新書)である。そこではなぜパクスアメリカーナ(アメリカの平和)が終焉を迎えたのか、なぜ世界の軸がアジアに移行しつつあるのか、そしてこれから日本はどのように対応すべきかが論じられている。著者の進藤教授に聞いた。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集委員 原 英次郎)

──この本の主題、つまり最も訴えたかったことは何ですか。

 21世紀情報革命下で、アメリカの世紀が終わり、アジアが勃興する地殻変動が進行している現実です。その現実をトランプの登場は示唆しています。

 では、なぜアメリカは、帝国としてのヘゲモニー(覇権)を失ったのか。

 第一に、デモクラシーというソフトパワーの喪失です。アメリカの民主主義が、デモス(民衆)のクラチア(権力)として機能しなくなっているのです。議員やロビイストが群がる金権政治化が進み、民衆を軽視した超格差社会を生み出しました。

 しかもその超格差社会化が、情報革命下で進む金融カジノ資本主義化と重なり合っています。0.001秒の時間差で巨万の富を稼ぎ出すアルゴリズム金融商法が跋扈し「ものづくり大国」から「カネづくり大国」へと変容し、経済力を衰微させてきたのです。リーマンショックがその表れです。

 しかもアメリカは、地球を何十回も皆殺しできる核を持ち、情報革命下で、最先端電子兵器群を開発し展開しているにもかかわらず、中東戦争を収束できません。反米感情を高めるだけで、テロを生み続けます。世界秩序の担い手としての実質的な力を失なってしまったのです。情報革命の逆説です。

 それに代わって台頭しているのが、中国やインドなど新興国、特にアジアです。「アジア力の世紀」の登場です。日本は、明治開国以来の脱亜入欧論や日米基軸論から転換すべき時に来ている、その転換のかたちが今求められているのです。