「お飲み物はどうしましょうか」
という怖い質問

 この謎を解明すべく、私がまず着手したのは実地調査でした。

 雑誌にもよく掲載される東京の有名鮨店4軒にお願いし、それぞれの店を4つ以上のアングルからビデオ撮影しました。同時に多数のボイスレコーダーを設置して、親方とお客さんのやりとりを録音し、分析したのです。

 その結果、非常に興味深いサービスの実態が浮き彫りになりました。

 まずは、親方とお客さんのよくあるやりとりの一例をご紹介しましょう。

 親方 えー、早速ですが、お飲み物はどうしましょうか?

 客  はい。あ~……、蒸してるんで生ビールでぇ……

 親方 生ビール、行きましょう

 さて、なんの変哲もない会話のように見えますが、このやりとりをサービスという観点から分析してみると、とんでもないことが起きています。

 まず、「お飲み物はどうしましょうか?」という質問からして奇妙です。なぜなら、お客さんは席に座ったばかり。しかも、初めてのお客さんなのです。メニュー表も渡していません。価格もわからない。お客さんはなにひとつ把握できていない状況なのに、「ほれ、早く飲み物を注文しろ」と催促されています。

 きっと読者のみなさんの中にも、お店で同じような経験をされた人がいることでしょう。

 ちなみに、私の研究室ではこうしたやりとりのデータを大量にストックしていますが、親方のこうした態度は珍しくありません。そして、問われてスッと淀みなく答えられるお客さんが、そうそういないのも、よくあることです。

 このお客さんも「あ~」と言葉を濁しながらしばらく考えます。考えた末に生ビールを注文しますが、このときわざわざ「蒸しているから」と理由を添えました。

 考えてみてください。レストランでメニューを見ながら注文するときに、なぜそれが欲しいのかわざわざ伝えますか? そんなことはしないはずです。