大統領選挙の候補者が選挙期間中に大統領を演じるドラマに出演することに対し、メディアを使った典型的なプロパガンダ活動でフェアではないという声が大学教授やジャーナリストから上がったものの、結局グレーゾーンという認識で放置されたまま大統領選挙は行われた。ゼレンスキー氏が出演する番組のほとんどは「1+1」というテレビ局で放送されており、この局のオーナーがウクライナのオルガリヒ(新興財閥)であるため、富裕層に優しい政治が行われるのではという懸念もすでに出ている。

親ロシア派政権崩壊から5年
新リーダーの舵取りに対する国民の期待度は?

 今回の大統領選挙で大敗を喫したポロシェンコ大統領についても触れておこう。2014年に発生した政変以降、定期的にウクライナの情報を聞いてきたウクライナ人の1人で、現在はキエフの政府系シンクタンクで広報責任者をつとめるテトヤナ・オリニックさんは言う。

「景気の停滞に関しては、実は2016年を境にプラス成長に転じています。ゆるやかな上昇ですが、ポロシェンコ政権の功績だったと私は確信しています。ただ、汚職に関してはポロシェンコ大統領でも対処できなかったのは事実。東部で続く戦闘と、賄賂なしではビジネスもできない現状に、国民がもう疲れ切ってしまったことがゼレンスキー大統領を誕生させたのではないでしょうか」

 ポロシェンコ大統領にとって不運だったのは、東部で親ロシア派民兵と戦うウクライナ軍の装備品調達に多くの予算を使う必要があり、他分野に十分な予算を回せなかったことだ。以前の記事でも触れたが、東部ドンバス地方での戦闘が激化し始めた頃、ウクライナ軍には十分な兵器が存在せず、市民からの寄付によってなんとか成立していた。しかし、5年におよぶ戦闘で国民は疲弊。昨年11月末にウクライナの広範囲で戒厳令が敷かれた際には、「大統領選での再選を狙った人気取りのパフォーマンス」と揶揄されるほどであった。

 ゼレンスキー氏の過去の発言を調べていくと、EUとNATOへの早期加盟を目指していくことを繰り返し主張しており、加えて任期中にドンバス地方で現在も続く戦闘を終結させるとも語っている。また、国内の法人税を変更して海外投資を呼び込み、国内経済を活性化させていくプランについても有権者に語っている。しかし、政治経験がゼロで、ウクライナ政界に強いネットワークを持たないゼレンスキー氏が、閣僚選びやこれからの政権運営で何を行うのかは不明だ。

 親ロシア派勢力との戦闘終結に多くの時間を注いだポロシェンコ大統領に対し、ウクライナの有権者は2期目のチャンスを与えなかった。ゼレンスキー大統領誕生が意味するのは国民の期待の表れなのか、それとも諦めのサインなのだろうか。