「校舎」がない、教師は「講義」も「テスト」もしない、全寮制なのに、授業はすべてオンライン……。今、こんな「ありえない大学」がハーバード大学やスタンフォード大学よりも人気を博している。その大学、「ミネルバ」について世界で初めて、体系的にまとめた『世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ』には、教育関係者だけではなく、学生からビジネスパーソンまで、幅広い読者から反響があった。本書の著者である山本秀樹氏に、その反響を振り返りつつ、一番問い合わせの多かった「どうすればミネルバのやり方を日本にも取り入れられるのか」について、まとめていただいた。
ミネルバ大学のやり方は、本当に日本で再現できないのか?
昨年の夏に出版された『世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ』はおかげさまで学校経営者だけでなく、企業の上級管理職の皆様から多くの反響をいただいた。本書を教育に関する本としてだけではなく、参入が不可能と思われていたエリート大学市場に新規参入を果たしたビジネス事例としても描きたかった筆者としては、大変嬉しいできごとだった。
一方で、この本に対するご質問やさまざまな人たちとのディスカッションを重ねるなかで、多くの方々がミネルバ大学のエッセンスを日本で再現することに悲観的な見方をすることには、少々驚いた。
これが、そのブランドを求めて世界中から受験生が押し寄せるアイビーリーグ(ハーバード大学、イェール大学など名門私立大学8校)なら理解できる。すでに世界的な名声を得ているため、実際に問題が山積しているにもかかわらず、自ら変革するインセンティブに乏しいからだ。
しかし、日本の大学の場合は、国際的地位の低下、減りつづける学部生、大学への教育投資に消極的な企業など、より状況は切実で深刻だ。ならば、ミネルバ大学のような事例は、経営改革を実施するうえで、格好のベンチマークではないか――そう思っていたからだ。
対話を続けていくなかでわかってきたのは、“文科省が云々”という従来からある学校関係者の言い訳とは別の課題だった。それは、日本の学校経営には“情報技術を経営へ活用する”考え方が欠落していることに他ならない。日本では、企業でさえ「情報技術への投資目的は主にコスト削減にある」と考えがちであるが、海外ではそれに加え、マーケティングや営業活動などほぼすべての分野で情報技術が活用されている。ミネルバ大学の運営もその例外ではない。むしろミネルバ大学を参考にして日本で再現するためには、彼らが現代の情報技術を最大限に活用して大学経営を行い、それにより教育の質だけでなく、効率的な運営も可能にしていることに注目すべきだ。