「質の高い教育」と「効率的な学校経営」は、両立できる

 では、質が高い教育を適切なコストで実現する学校経営はどのように行われているのか。

 質が高い教育を実現するには、自分たちが提供する教育の内容、自分たちの教育によって最も成長できる学生はどんな人かを自ら理解しておく必要がある。教育には相性があり、すべての人に等しく効果的な教育など存在しないからだ。そのうえで、以下のような学生体験を軸とした学校運営のサイクルを回して安定的な支持層を拡大していくことが重要だ。

「入試」もキャンパスもない大学をなぜいま日本が真似すべきなのか――大学改革のための3つのポイント図1 学生経験を軸とした学校運営のサイクル

 こうしたサイクルは一見、新設校には不可能か、遠回りに見えるかもしれない。そもそも無名の学校に誰が注目してくれるのか。確実に自分たちの学生が社会で必要とされるような能力を身につけている、というような授業をどのように提供するのか、そして、学生の個別のキャリア指向に合わせたインターンシップやプロジェクト学習の機会をどのように提供していくというのか……。

 ミネルバ大学が画期的なのは、情報技術を最大限に活用することで、こうした問題を解消してみせたことだ。2018年度の入試では、新聞や雑誌への広告を一切行わず、約2万3000人の入学希望者の中から自分たちが伸ばせると信じる274名に入学許可を与えた。この合格率1.2%は、ハーバード大学やスタンフォード大学よりも厳しい「狭き門」だった。男女比率はおよそ4.5:5.5で女子のほうが少し多いと言われている。

 ちなみに、ミネルバ大学の入学志願者が増えつづけている背景をいくつか紹介しておこう。

・アイビーリーグをはじめとする名門大学に行きたくても行けない、優秀な学生にミネルバ大学がアプローチできていること。そうしたトップ大学を目指す学生は依然として世界中に数多くいるものの、機会均等のために設けられた財務支援制度や優先枠はもはや機能していない。そのため、学生にとってもミネルバ大学は魅力的な選択肢となっている。
・第三者によるソフトスキル能力評価において、ミネルバ大学の学生が驚異的な成長を示していること。ミネルバ大学の学生は、入学時は他のトップ大学の学生の成績を下回っているものの、わずか1年で他大学の学生が4年かけて伸びる分の7倍の学習効果を実現している。
・アイビーリーグの学生が憧れるような企業、NPO、有名大学院や研究所などが高い評価を提供していること。さらに、他大学の教授からも高い評価を得ていることもある。

 こうして人気を博しているにもかかわらず、学費はこうしたトップ大学の3分の1未満、日本の私立大学と同程度の金額だ。全米大学協会のリン・パスケーラー会長が「ミネルバ大学は私たちが最も重視している学習効果について素晴らしい結果を出した。(中略)すべての大学が見習うことができるし、そうするべきだ」とコメントしたように、教育業界で高い評価が定着しつつある。