「でも、まだチャンスはある」

 優美子は森嶋から視線を外し、唇をかみしめた。

「しかし、このままだと──」

 森嶋は言いかけた言葉を飲み込んだ。声に出すと、その不吉な言葉が現実になりそうな気がしたのだ。坂道を一度転がり始めた球は、さらに速度を増して転がり落ちていく。

「もうやめましょ。いくら仮定の話をしてもしようがない。私たちには、まだ出来ることがある。そっちを頑張るほうが建設的よ」

 たしかにその通りだ。そんな悲観的な話ばかりするより、もっと建設的な話をした方がいい。

「明治維新に匹敵する新しい日本の動きを作らなければ、日本に生き残る道はない」

 森嶋は殿塚の言葉を考えていた。政治家にも真剣に日本の将来を考えている人がいる。

 森嶋と優美子が役所に帰ると、ユニバーサル・ファンドが日本国債を買い漁っているという話題で持ちきりだった。テレビニュースではまだやってないはずだから、どこかの省庁からの情報だろう。

「黒船が現われたというと大げさかな。これで日本経済も変わらざるを得ないだろう。財務省、金融庁もやっと海外に目を向けるようになる」

 そう言ったのは金融庁からの出向者だ。

「要するに日本の最大の弱点は、このどん詰まりの中で有効な経済対策が打てないことだ。首都移転には一気に弾みがつくんじゃないか」

「しかし、この時期に首都移転なんて持ち出していいもんかな。財務省が目をむくぜ」

「この時期だから必要なんだ。経済活性化だろ。最高の方法だぜ。雇用も増えるし、不景気のどん底の建設系企業も潤うだろ。IT関連、その他の関連業種はごまんとある。最高の経済活性化のパフォーマンスだ」

「そのすべてが俺たちにかかってるってことか。村津さんは最初に、このグループには各省庁のトップクラスの若手を要求したって言ってたよな。当たってるよ」

「お世辞だよ。バカだな」

「俺たちに日本の将来が託されているってことだよ。油売ってる場合じゃないだろ」

 千葉の言葉で雑談は消えていった。

 グループの士気は地震以後かなり高くなっていたが、これでさらに上がった。