先月5日、アルコール依存症(使用障害)に対する飲酒量低減薬「ナルメフェン塩酸塩水和物(製品名セリンクロ錠/大塚製薬)」が上市された。
従来、アルコール使用障害の治療手段は断酒に限られていた。しかし患者の抵抗感が強く、断酒に至らず脱落するケースが多い。特に、早期ほど拒否する傾向がある。まだ社会生活が維持できている段階なので「断酒=アルコール使用障害」という診断を簡単には受け入れ難いのだろう。
このため近年は、「いきなり断酒」ではなく、段階的に飲酒による害を減らすハームリダクションの概念が提唱されている。
昨年7月に改訂された『新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン』でも、軽度の使用障害で、明らかな合併症がない場合は「飲酒低減が治療目標になる」と明記された。
また本来、断酒を目標とすべき重症者――身体的、精神的な合併症で生命の危機にある、社会・家族生活の破綻など、深刻な問題がある患者であっても、本人が断酒を希望しない限り、暫定的に飲酒低減を選択できる。
アルコール使用障害の治療の柱は、認知行動療法や集団精神療法などの心理社会的治療で、薬物療法は補助的に用いられる。
これまでは、断酒維持を目的とした抗酒薬と飲酒抑制薬のみだったが、ナルメフェンが登場したことで、ハームリダクションが現実的になった。
アルコール使用障害者を対象に、心理社会的治療とナルメフェン頓服併用で行われた臨床試験では、偽薬群と比べ、多量飲酒の日数と総飲酒量が有意に減り、頓服の効果が24時間続くことが確認されている。主な副作用は、悪心、めまい、眠気などだった。
男性の場合、平均アルコール摂取量が1日当たり60グラムで、使用障害の一歩手前の多量飲酒者に相当する。ビールなら中瓶3本以上、日本酒なら3合ほどの量だ。「毎回これくらいは飲むよ」という人は結構いるだろう。
飲み過ぎの自覚があるうちに、減酒について、かかりつけ医や産業医に相談するといい。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)