第3章
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「政治家の密談と言うと、料亭かゴルフ場と思っていました。まさか渋谷の居酒屋の一室とはね」
森嶋が身体を縮めて座り直しながら言った。
引き戸を閉めると他とは分離されるが、プライバシーが完全に守れるかどうかは分からない。隣の部屋との仕切りはベニヤ板1枚、窓もない3畳あまりの小さな部屋だ。
村津も戸惑っている。入り口で殿塚の名を告げると案内されたのだ。
店の表からは若者のざわざわした話し声と笑い声が聞こえてくる。表はカウンターとテーブル席になっている。部屋に来る時見た限りでは、客の大半は若者で、数組の若い家族連れがいた。
森嶋は今日、仕事が終わってから村津についてくるように言われたのだ。そのとき、「殿塚先生に会う」とひとこと言った。
「仕方がないだろ。殿塚さんの指定だ。こういう店は嫌いか。私はときどき来る。早苗に連れられてな」
「そう言うわけじゃないです。ただ殿塚さん、いえ殿塚先生には不釣り合いかと思って」
「お前は殿塚さんでいい。政治家といっても、へんにへりくだることはない」
森嶋は銀座の中華料理店で会った殿塚を思い浮かべた。気取った政治家というわけではないが、それなりの風貌をした紳士だった。
その時、引き戸が開き男が入ってきた。羽毛のロングコートにハンチングを被った男だ。薄いが色の入ったメガネをかけている。
「待たせたかね」
「我々もついさっき来たところです」