「新しい首都の場所はすでに決定しているんだろうな。候補地程度では説得力はないぞ」
「いずれ近いうちに、ゆっくりとお話しすることになるでしょう」
村津の言葉に森嶋は飲み掛けたビールグラスをテーブルに置いた。初めて聞く話だ。今の村津の口ぶりでは、すでに移転先は決まっているようだ。
「自由党は私にまかせてくれ。何としても同意は取り付ける」
「総理も急いでいます。かなりの歩み寄りが可能かと思います」
「道州制と首都移転か。国民は驚くだろうな」
「日本国民のみならず、世界が腰を抜かすでしょう。この状況での首都移転です。日本政府には決定力がない、経済活性化の有効な手は打てない、と言っていたインターナショナルリンクは何と言うでしょうか。慌てて日本と日本国債のランクを元に戻すか。それとも、前よりランクを上げるか。いずれにしても、かなりの経済効果が認められるでしょう」
「財源はどうする。必ず問題が湧き起こる。国民からもだ。そんな金を使う前に、もっとやるべきことがある、と言うことだ」
「それについては、総理がすべて任せてほしいと言っているようです」
「いよいよ日銀を動かすことにしたか。彼らは抵抗するだろう。前の首都移転の頓挫も、表向きはあまりに金がかかりすぎるという理由だった」
3人は2時間ほど首都移転と道州制について、かなり突っ込んだ打ち合わせをした。
村津と森嶋は殿塚をタクシーに乗せてから、地下鉄の駅に向かって歩いた。