きっかけは、中国が米国との間で合意していた事項の一部について、態度を変えたこと。それを受けて5日にトランプ米大統領が、冒頭の2000億ドル分の関税引き上げを実施するとツイートした。

 9~10日に米ワシントンで開かれた米中貿易協議でも合意に至らず、10日に大統領の宣言通り引き上げられた。

 合意には達しなかったが、協議自体は継続する。とはいえ、協議の先行きは楽観できない。

中国が譲れない
国家資本主義の屋台骨政策

 中国側の交渉責任者である劉鶴副首相は「中国の原則に関わる問題では決して譲らない」と断言する。これは国有企業への産業補助金のことを指しているとみられる。国が補助金を通して企業の研究開発などを支援するというのは、中国が標榜する国家資本主義の屋台骨だ。中国製造2025で掲げるように先端分野の技術での覇権を目指すには不可欠の要素だ。

 一方、米国は中国が先端分野での技術覇権を握ることを阻止することを狙っている。だから、知的財産権の保護、外資系企業から中国企業への強制技術移転の禁止、産業補助金の廃止を中国に要求してきた。

 中国は3月の全国人民代表大会では、外国企業に技術の強制移転を求めることを禁止する外商投資法を成立させた。知的財産権の保護にも力を入れていくとしている。しかし、補助金に関しては、譲れないというのが劉副首相の発言から見て取れる。

 本来、関税は自国に有利なように貿易バランスを変え、自国の産業を保護するためにかける。トランプ大統領にとっても当初は対中貿易赤字削減のための手段だったが、今回は前述の構造問題における中国の譲歩を引き出すための道具となっている。

 市場への影響を抑える狙いもあり、両国は協議を決裂とせず交渉を継続するとしている。また、トランプ大統領は、13日に「日本での6月28~29日のG20(20カ国・地域)首脳会議に合わせて、習近平中国国家主席と会談することになるだろう」と発言した。

 しかし、技術覇権の確立を目指す中国とそれを阻止したい米国は、このままいけばどこまでも相いれないだろう。2000億ドル分の関税引き上げに対する中国の報復関税を受けて、米国の約3000億ドル分の関税引き上げが実施される公算は大きい。

 これまでの米国の対中関税引き上げでは、庶民の生活に影響の大きい消費財や中国への依存度が高く代替輸入が難しい品目を対象から外してきた。しかし、今回はこうした製品の関税を引き上げることになる。